「無駄なコミュニケーション」こそが「リアル」を支えている
「はい、かんぱ~い!」
コロナ禍では同僚や取引先との「飲みニケーション」が減少する一方で、パソコンを前にビールジョッキを傾ける「オンライン飲み会」が見られるようになった。「子供を寝かしつけた後、自宅で飲む一杯は格別」と大手広告代理店に勤務する40代男性は友人との飲み会を楽しむ。
アフターコロナへの道筋が見えにくい中、「新しい生活様式」で誕生するオンラインでのコミュニケーションは活発だ。対面での授業が当たり前だった様々な学習もオンライン化が進む。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが2020年8月~10月に実施した調査によると、在宅勤務を経験した従業員の87.2%が今後も継続してテレワークを希望している。他の調査でも在宅勤務の満足度は高く、コロナ禍で制約される同僚や取引先との「飲みニケーション」の頻度を、感染の終息後に元に戻したいという人は少ない。
ただ、視覚と聴覚に限定されたコミュニケーションには不安も残る。
「先輩、そのままでは冷たく感じますよ。もっと柔らかいイメージにしなきゃ」
大手証券会社で働く40代女性は、まだ駆け出しの従業員からアドバイスを受けた。親しくする営業先へのメールだったが、その文面は内容のみを伝える淡々としたもので、あまりに"無表情”だったからだ。
経済や金融を学び、対面での「リアル営業」には自信を持っていたが、コロナ禍で営業はイマイチだ。場所を問わずオンライン上で会話できる「Zoom」やメール、チャットでの交流は、実際の面会に比べ頻度を上げることは可能だ。しかし、その臨場感や距離感には課題が残り、コロナ前の「リアル対面」のようなスムーズな会話をしづらいとの声は少なくない。
「人付き合いが少なくなり、情報収集の機会は一気に減った。どう接していけばいいのかわからなくなった」
かつてのマニュアル通りにいかない現状に不安は隠せない。
文化庁が2021年3月、コロナ禍のコミュニケーションへの影響を調査したところ、オンライン通話などで気をつけていることは「自分が話すタイミング」が58.4%と最も多かった。マスクを着用している際に話し方や態度が変わる人は6割を超え、「相手の表情や反応に気をつける」も4割に上る。
デジタル時代に進む効率化で「無駄」は省かれる一方だ。コミュニケーションの変化に人々は対応し、テレワークに居心地のよさを感じる人もいる。だが、「顔が見えない時代」だからこそ、「リアル」の重要性は増す。デジタル時代を生き抜くためには、無駄なコミュニケーションこそが重要といえるかもしれない。
●世の中の49%の職業はAIで代替可能!? 第2回へ続く>>
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