減少する「たばこコミュニケーション」、
増加する「テレワークうつ」
東京・千代田区にあるオフィス街の一角。高層ビルの中ほどには喫煙コーナーが設けられていた。
「おつかれさまっス」「おう!」
昼時を迎えると、様々な社員証を首から垂らしたサラリーマンが集まり、たわいもない会話が交わされる。職場は違うフロア、年齢や肩書もバラバラだ。しかし、仕事場以外でのコミュニケーションが潤滑油となり、時として雑談からビジネスに役立つヒントが得られることもある。
ただ、2020年4月から改正健康増進法や東京都受動喫煙防止条例が施行され、2人以上の人が利用する屋内は原則禁煙となり、「たばこコミュニケーション」は失われていった。その一方で、オフィスに併設されたカフェや給湯室を含めた休憩スペースでのコミュニケーションは進み、無駄のように見える場と時間は人々が「リアル」を求めていることを浮き彫りにしている。
新型コロナウイルス感染拡大を機に増えたのは、テレワークだ。国は感染対策として企業に推進を求め、その実施率は急増した。東京商工リサーチによる調査では、2020年4月に緊急事態宣言が発令される直前の実施率は17.6%だったものの、2ヶ月後には56.4%に上昇している。東京都内のテレワーク実施率は2022年3月でも62.5%と高い。保育園や幼稚園の送迎に加え、スーパーのタイムセールに並ぶ父親の姿も見られるようになった。
だが、それと並行するように医療機関にはある相談が増加した。メンタルヘルス不調だ。国には「同僚や部下とのコミュニケーションがとりにくい」「従業員の心身の変調に気づきにくい。どうしたらいいのか」といった相談も寄せられ、2021年3月には健康相談体制の整備やコミュニケーションの活性化に向けて「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」が公表された。
家庭にいる時間は増えたものの、仕事と家庭の垣根がなくなり、「テレワークうつ」に悩まされる人は増加した。適正な人事評価の実施や長時間労働の抑制とともに、メンタルヘルス対策などの健康確保対策を求める声が高まる。