資産運用とは負債のバランスやライフプラン含め共に考えること
冒頭で、「日本に資産運用文化を根付かせる」と言いました。では、資産運用とは何なのでしょうか。恐らく今の日本において、お客様の資産をすべて預かって運用を任されている人は、皆無に近いと思います。
たとえば、ここに30億円の資産を持つ富裕層がいるとしましょう。日本において「運用」とみなされているのは、この30億円のうち1億円程度について、株式や債券での売買を任されている、という程度の話です。
でも、これは資産運用とは言いません。少なくともピクテにおいてはそうです。私たちが考える資産運用とは、30億円の資産全体のポートフォリオを、資産だけでなく負債とのバランス、さらにはライフプランなども考慮したうえで、最適解を導き出すことだと考えています。最近、ようやく金融機関の間でも、この手のことに取り組み始めているところが出始めてきましたが、まだまだ少数です。ですが、私たちはそういう取り組みをしているところと、こと個人向けのリテールに関しては一緒にビジネスをしていきたいと考えています。
以前、ある金融機関から、「こういう商品をつくってくれ」と言われました。言下に断りました。なぜなら、私たちのフィロソフィーに合わないからです。
もちろん、「これこれこういうお客様の資産に合わせて、こういう商品を提供したいからつくってくれないか」と言われれば、対応したでしょう。でも、「うちが販売するとこれだけの数字がつくれるから、こういう商品を組成してくれ」と言われたところで、それを販売する時に、どういうセールストークでお客様にそのファンドを販売されるのか、私たちには全く分かりません。そのような商品を提供したら、私たちと個人のお客様との間の信頼関係にヒビが入ってしまいます。
自分にとって大事な友人、親戚、両親の資産運用をする覚悟があるのか、ということを前提にして、金融商品を販売する人たちに選んでもらえるようなプロダクトをつくり、それを販売してもらう。今後10年、20年をかけて、それをしっかり根付かせることによって、日本の金融は活性化すると信じています。
(おわり)
取材・文/鈴木 雅光(金融ジャーナリスト)