<前回まで>
投資信託委託会社「コモンズ投信」の代表取締役社長の伊井哲朗氏に、ロングインタビューを行い、ファンドの立ち上げなどを振り返って頂きました。キャリアの駆け出しとなった山一證券が破綻し、従業員と支店の多くを引き継いだメリルリンチに移籍。当時の証券営業の方針は理想的だったといい、世界レベルの営業支援を受けながら顧客重視のリテール営業を経験します。ただ、2000年のITバブル崩壊とともにメリルリンチの経営理念も変わってしまいます。そんな中、独立を検討しているところにコモンズ投信を共に創業する渋澤健氏と出会います。リーマンショックという混乱期に第1号ファンドを設定するも、大変厳しい船出となったのです。
投資家と投資先企業の双方をつなぐファンドの取り組み
コモンズ投信の第1号ファンド、「コモンズ30ファンド」は、リーマンショックで株価暴落中の募集・設定ということもあり、小さな誕生となりました。自分自身では10億円くらいは集まるかなと思っていたのですが、それをはるかに下回る、1億1800万円からのスタートになったのです。この時、「小さなスタートだけど、それでも氷の大地にしっかり熱い種はまきました」とメッセージを配信したことを覚えています。
コモンズ投信の「コモンズ」とは、コモン・グラウンドという言葉から取りました。コモン・グラウンドとは「共有地」のことです。コモンズ30ファンドに投資して下さる投資家と投資先企業、双方にとっての共有地を目指し、全員参加型の運用会社にしたいという願いを込めて、コモンズを社名に掲げました。
その具体的な施策として、創業間もなく「コモンズ30塾」の開催を始めました。なぜ、コモンズがこの会社を長期投資の対象として選んだのか、投資先企業のIR(株式の広報)部門や経営者の方々から直接説明を伺うことでご自身でも確認して欲しい、そしてご自身の大切な資金がどんな会社に流れているのかを実感して欲しかったのです。
また、コモンズ30塾では統合報告書のワークショップも行っています。統合報告書とは、企業の財務情報だけでなくガバナンスや企業の社会的責任などについても言及した開示書類のひとつで、あらゆるステークホルダーが読者対象になります。
この勉強会では、投資先企業の担当者にお越しいただき、ファンドを保有して下さっているお客様の前で、統合報告書の見方、ポイントなどについて1時間程度、説明していただきます。近年はコロナ禍の影響もあり、リアル会場での開催は難しくなっていますが、オンラインを活用して今も続けています。投資先企業からは、「実質的な株主でもあり、消費者でもある方々からの真摯なアドバイスを受ける場としてもとても貴重です」とおっしゃっていただき、受益者である個人の方からは「統合報告書を通じて、投資先の理解が深まる貴重な機会だ」という意見をいただいています。
さらに、工場見学なども開催しています。リンナイの瀬戸工場にお邪魔した際は、主力製品である給湯器を製造する現場を実際に見学する機会に恵まれました。「4S」と呼ばれる整理、整頓、掃除、清潔が行き届いており、また、「品質」への徹底したこだわりを、文字や数字では表すことができない感覚で味わうことができました。
また、投資先企業を訪問するイベントとしては、親子で参加できる「こどもトラスト企業訪問編」も定期的に開催しており、これまでヤマトホールディングスやセブン&アイ・ホールディングス、デンソー、シスメックス、資生堂、ダイキン工業さんなどにご協力いただきました。
これらに加えて「周年イベント」と称し、お客様や投資先企業の皆さんが一堂に会する場も設けています。コモンズ30塾が四半期に1度、これに周年イベントが年1回、工場見学が年1、2回などを加え、これまでで延べ100回程度、私たちが「お仲間」と称しているコモンズ投信のお客様と、投資先企業が直接、出会う場を設けてきました。