カギを握るのはインベストメントチェーン

ここで鍵となるコンセプトがFinaseeのテーマでもあるインベストメントチェーンです。

インベストメント(投資の)チェーンとは、「Finasee とは」にもあるように、投資信託であれば資金の出し手である個人から、運用会社である機関投資家、資金の投資先となる企業における「資金と対話(エンゲージメント)の循環」を指します。個人が直接企業に投資をすれば、株主総会に出席して質問する、議決権行使をして意見を表明することも可能ですが、この場合は機関投資家が責任をもって、企業へ提供した資本の使われ方について理解し、改善の余地について対話をするということがスチュワードシップ責任を果たすということになります。この資金と対話の循環が機能することで、企業の価値創造が高度化すると同時に、株式市場における投資リターンも中長期的に向上し、海外からマネーも呼び込めることになります。

出所:eminet group ltd.

米国では、そういった個人の声が、機関投資家を動かし、企業が資本コストを上回るリターンを出す仕組み(G)、カーボンニュートラル(E)や労働者の安全・衛生(S)を確保する企業へと資金が向かう流れが既にできています。欧州でも、SFDRというルールによって投資信託がサステナビリティの観点からどのような活動をしているかを目論見書や定期報告で開示することが義務付けられているため、機関投資家は投資信託のリターンと社会の持続可能性のバランスについて説明しています。これは、投資家との「対話」であり、資金と対話の循環(改善を見守りながら投資を続ける)が成り立つ仕組みです。

日本版スチュワードシップ・コード策定から8年が経ち、エンゲージメントの成果も企業の経営を監督する取締役会の在り方の改善(例えば独立社外取締役の割合の向上)、ESGに関する情報開示の拡充、持合い株式の解消(によって少数株主の声が反映しやすい仕組み)など、より株主価値向上を促す企業の改善という形で見えてきました。一方で、改善スピードはまだ十分とは言えない状況です。機関投資家の継続的な活動に加えて、資金の出し手である個人の想いとボイスに期待が寄せられます。

投資信託のようにお金は集まると力になります。それは社会を動かすボイスになるのです。投資の連鎖に個人が参画し、企業の稼ぐ力、働く人の活用の向上、外の目を入れて経営する価値の重視、という思いを寄せてこそ、企業における変革が促されるのです。個人が直接的に企業と対話することはあまりないかもしれないですが、その立ち位置は決して部外者ではありません。

10月からさらに制度として拡充されるiDeCoで将来に備える人も増えています。自分の価値観にあった投資先を選んだり、ファンドの説明会を聞いてみたり、SNSを通じて呟いてみたりして、機関投資家のエンゲージメントや企業に対して「どうもうまくいっていないのでは?」、「こうしてほしい」といった意見を伝えてみてはいかがでしょうか?

「ESGの女神」と考えるエンゲージメント、次回は機関投資家によるエンゲージメントの様々な活用法や投資リターンとの関係について詳しく見ていきます。