多くの日本人が、日本経済がどうもうまくいっていないらしい、という感覚を持っています。例えば世界の成長から取り残されたゆでガエル、技術進歩についていけないガラパゴス……。実は、株式市場は経済に対して鋭敏な感覚を持っています。海外の投資家に日本の株式市場についての印象について聞いてみると、2010年代のガバナンス改革を経ても他国に比べて企業の価値創造への信頼度は低く、マーケット全体に投資をする意義は感じられないとのことです。なぜでしょうか?

脱ガラパゴスのチャンスは?

多くの企業が価値創造、特に株式市場の視点からは株主価値(提供した資本のコスト以上のリターン)を上げる事ができていないと見られているからです。株式会社が中心の日本経済で株式会社と株式市場がうまく機能していないのであれば大問題です。ではそんな市場にどんな変化が起これば、海外から注目され、もっと投資を呼び込めるのでしょう? その鍵は「エンゲージメント」にあります。

エンゲージメントと聞いて、皆さまは何を想像しますか?エンゲージメントリングにあるように婚約を思い浮かべる方も多いかと思います。他にもミーティングを持つことや関わりという意味でも使われます。近年、金融業界ではこのエンゲージメントという新たな価値創造のアプローチが注目されています。一言で言えば、世界の機関投資家が日本企業の経営者と対話し、世界の競争相手の状況を共有し、ガラパゴスやゆでガエルから脱却できるチャンスを作ろうとしています。

私は25年程金融業界に身を置き、2000年から投資信託の世界で営業や運用に携わり、近年では、ESGという環境・社会・ガバナンスの観点から企業の価値創造の後押しをする投資家のエンゲージメントに携わっています。このコラムでは、その仕組みや関係者の活動の現場の様子を通じて、エンゲージメントの本質を解き明かしていきたいと思います。

恐らく国内の金融業界で「エンゲージメント」という単語が広く使われるようになったのは、2014年に日本版スチュワードシップ・コードが策定されたあたりからということになるでしょう。アベノミクスの成長戦略における第三の矢の中で、企業のガバナンス改革推進が叫ばれました。株式投資家が企業と対話することの大事さに気づいていたわけです。その一つの施策として、政府から金融庁が関わり、機関投資家に対する期待を込めて日本版スチュワードシップ・コードが策定されました。

そもそもスチュワードシップという言葉自体、馴染みのない単語だと思います。これは「責任ある財産の管理人」という意味で、投資信託の運用会社のファンドマネージャーなど機関投資家は資金の出し手に対して、委託された資金を責任をもって運用することが期待されているということです。