ロンドン時代に出会った投資家や投資手法
日本株のマーケットは非常に厳しくなりましたが、英国の投資家と親しくなれたことは、私にとって大きな収穫でした。
日本株は1990年代に入ってから下落の一途をたどっていましたが、そうはいっても日本の株式市場は規模が大きかったので、グローバル運用をする英国の投資家からすれば、一定比率で日本株をポートフォリオに組み入れておく必要がありました。
その頃の私は、日本株の情報を持っていて、アナリストを経験しており分析も出来たので、彼らからすると、自分たちの投資に役立つ情報をもたらしてくれる有力な情報源の1人だったのです。
彼らの特筆すべき点は、信頼関係を築くと、本当にいろいろなことを教えてくれるのです。どういう企業に投資するのが面白いのか、マーケットを見る時はどういう観点が必要なのかといったことまで、懇切丁寧に教えてくれました。
彼らからすれば、私が社内の人間なのか、それとも社外の人間なのかは全く関係なく、自分たちの投資スタイルを理解してくれて、それに合った投資対象の情報をもたらしてくれるかどうかが大事なのです。
たとえばスタンレー・フィッシャーという経済学者が書いたマクロ経済学の本を渡され、「これを読んで勉強しろ」などとも言われたことがあります。その当時、日本ではまだ経済学は経済学としてしか捉えられていませんでしたが、欧米では経済学とマーケット理論の融合が進み、モダンポートフォリオ理論が急速に進化していました。
加えて、1980年代後半あたりから「アービトラージ」という投資手法が編み出され、それとほぼ同時期に、コンピュータがメインフレームからワークステーション、PCへと進化しました。そしてウインドウズ95が登場し、誰もがロイター端末などからマーケットのデータを取り込んで、アービトラージモデルをつくれるようになったのです。私もいろいろなモデルをつくりました。
ロンドンからニューヨークに転勤した時、「萩野は相場が当たる」と、当時の上司からよく言われ、ヘッジファンドを運用することになりました。それは、自分でアービトラージモデルをつくっていたからですが、それは、まさにロンドン勤務時代の蓄積だったのです。
取材・文/鈴木 雅光(金融ジャーナリスト)