商品やサービスを提供する側とされる側の間に存在する情報格差「情報の非対称性」は、資産運用の世界にも存在します。この情報の非対称性による弊害を防ぐための施策として、金融機関では「重要情報シート」が導入され始めています。情報の非対称性を埋める重要情報シートとは何なのか? 『Finasee(フィナシー)』を運営する想研の専務取締役である菊池裕が解説します。
※この記事は、2022年6月に実施したフィナシー・資産づくりセミナー「こんな質問していいの? 鋭いツッコミを促す『重要情報シート』とは」をダイジェストにして記事化したものです。
「重要情報シート」に書かれている意外な内容
「重要情報シート」とは、顧客にとって分かりやすく、多様な商品を比較することが容易になるよう金融庁が導入を推進している資料です。平たく言うと、「お客さんがこんなはずじゃなかった! とならないように、あえて金融機関にとって営業上、不利な情報を見せる」施策です。
具体例を挙げてみましょう。例えば、現時点で国内最大規模を誇る投資信託「アライアンス・バーンスタイン・⽶国成⻑株投信」の野村證券の重要情報シートには、次のような文章が記載されています(重要情報シートは「金融事業者編」と「個別商品編」に分かれますが、以下は「個別商品編」です)。
次のようなご質問があればお問い合わせください
・あなたの会社が提供する商品のうち、この商品が、私の知識、経験、財産状況、ライフプラン、投資⽬的に照らして、ふさわしいという根拠はなにか。
・この商品を購⼊した場合、どのようなフォローアップを受けることができるのか。
・この商品が複数の商品を組み合わせたものである場合、個々の商品購⼊と⽐べてどのようなメリット・デメリットがあるのか。
・上記のリスクについて、私が理解できるように説明してほしい。
・相対的にリスクが低い類似商品はあるのか。あればその商品について説明してほしい。
・私がこの商品に○○万円を投資したら、それぞれのコストが実際にいくらかかるのか説明してほしい。
・費⽤がより安い類似商品はあるか。あればその商品について説明してほしい。
・私がこの商品を換⾦・解約するとき、具体的にどのような制限や不利益があるのかについて説明してほしい。
・あなたの会社が得る⼿数料が⾼い商品など、私の利益よりあなたの会社やあなたの利益を優先した商品を私に薦めていないか。私の利益よりあなたの会社やあなたの利益を優先する可能性がある場合、あなたの会社では、どのような対策をとっているのか。
これらの項目を、もともと丁寧に説明していたアドバイザーもいたとは思いますが、このシートがあることでアドバイザーによる差を出さない効果があると思います。また、「聞いていいんだ」と思えるので、プッシュ型の営業に弱い方を守る効果もあるでしょう。
一方、金融事業者にとっては、情報の非対称性を利用して販売することが難しくなるかもしれません。重要情報シートは説明に要する時間が増える場合もあって大変な面はあるでしょうが、長い目で見れば顧客からの信頼を獲得し、結果としてビジネスの拡大につながっていくはずですし、その努力が報われてほしいとも思っています。
なお、この重要情報シートの導入は義務ではありません。導入していない金融事業者もあります。そういう意味では、「ない」よりも「ある」ほうが相対的に安心できるとも考えられます。
資産を預ける側も、各金融機関が取り組んでいる努力や工夫を理解して、Win-Winの関係になれることを願っています。