5月の改正で海外に住む日本人のiDeCo加入が法律上可能に

一方の海外に住む日本人も外務省が1月に公表している「海外在留邦人数調査統計」によると2021年10月末現在134万人、うち永住者が54万人、長期滞在者が81万人となっています。海外勤務経験者の方々は、日本の医療制度は経済的にも技術的にも素晴らしいので、年を取ったら日本が一番とよく聞きますから、長期滞在者の中には、将来日本に戻って暮らすことを考えている人もいると思います。今後は多様な働き方の一つとして、海外転勤という形ではなく、海外で自ら事業をする形で海外居住する日本人も増えるかもしれません。

そんな日本人が現在、将来帰国した時に受け取れる年金を増やす方法としては、任意で国民年金に加入し国民年金を受け取れるようにするというのがあります。そして、国民年金に任意加入をしていると国民年金基金に加入することもできます。

さらに、5月からは国民年金に任意加入していればiDeCoにも加入できるように法律上はなります。「法律上は」とあえて書いたのは、この対応をしてくれる運営管理機関が現時点ではごくわずかだからです。ボリュームが見込めるビジネスターゲットではないので優先順位が低く手が回っていないのが実情のようです。今後、ニーズの拡大とともに取り扱う運営管理機関が少しずつ増えることを願っています。

大切な年金資産を育て、きちんと受け取れる制度へ

確定拠出年金は制度当初から「ポータビリティ」がその特長といわれてきました。確かに他の制度に比べれば転職・退職時に年金資産を持ち運び、どのような働き方になっても老後資産形成が継続できる仕組みはあります。しかし、実際には転職等によって企業型DCの資格を喪失した後6か月以上移換手続きを行わず国民年金基金連合会にて現金預かり状態になっている「自動移換者」が2022年1月時点で107万人もいます。さらにこの4割程度が移換時の手数料等によって年金資産がゼロの状態です。これは、本来的なポータビリティの姿を実現できているとはいえません。

自動移換への対策として厚生労働省も法制面の整備も行い、2018年5月から、企業型DC・iDeCo新規加入の際に、口座を管理する記録関連運営管理機関が自動移換になっている資産を持つ者ではないかデータを突き合わせて、本人と確認できればその資産を新設した口座へ移換戻しをするというようなサポートを実施しています。

そのことによって、2021年度においては約4万人、290億円の年金資産が本人の元に戻っているそうです。素晴らしいことです。しかし、一方で企業型DCの普及と転退職の増加によって年間10万人、165億円の資産が新たに自動移換となってしまっており、2021年3月末時点の資産額は2,395億900万円(自動移換者100万人、うち資産額0円が44万人)にまで達しています。どうも、仕組みだけでは到底解決できそうにありません。本人に自分の年金資産という意識をもって行動してもらうことが、やはり欠かせません。

そのためには、人生100年に備えていく手段の一つとして、改めて確定拠出年金の制度の特長としてポータビリティを、退職するときだけでなく、加入しているときから伝えておくことが必要だと感じます。そのうえで転退職するタイミングでサポートする企業や運営管理機関が5月に拡がる退職後の選択肢をしっかり伝えていくことで、少しは変わるのではないかと淡い期待を抱いています。

今回の改正によって外国人、海外に住む日本人も含めたみなさんにとって「確定拠出年金が年金資産として受け取れてよかった」と思える仕組みが制度としては整いました。後は、知ってもらって、活用する、ここのところが大切だと思います。(2022年10月5日記事更新)