帰国時に受け取れない不満が2022年5月から解消

5月からはiDeCoの中途引き出し(=脱退一時金の受給)を満たしていれば、企業型DCからiDeCoへ資産を移すことなく中途引き出しが認められるようになりますし、iDeCoの中途引き出し要件も大きく変わります。
5月からの中途引き出しは以下のいずれも満たす場合に可能となります。

①60歳未満である
②企業型DCの加入者でない
③iDeCoに加入できない
④障害給付金の受給権者でない
⑤通算の掛け金拠出期間が5年以下または資産額が25万円以下
⑥最後の企業型DCまたはiDeCoの加入資格喪失から2年以内

5月までの中途引き出し要件にあった「国民年金保険料の免除者であること」が、上記の①②➂に変わったことで、海外に帰国した外国人の方が該当するようになりました。企業型DCのある企業に5年以下の短期間勤続する予定の外国人労働者の方々にとっては朗報ですし、雇用する企業にとっても、本人が受け取ってもらえるのであれば採用時に胸を張ってベネフィットとして企業型DCを伝えられるようになるので大きな改善と受け止められているようです。手続きも、企業型DCから直接受け取ることも可能になったので、企業を退職した後すみやかに手続きすれば、iDeCoの口座開設の手間と時間が不要となります。

勤続5年超えて帰国ならば、企業年金連合会という選択も

勤続5年を超えて海外に帰国する場合の選択肢も拡がります。5月からは企業型DCの資格喪失した後の受け皿として、企業年金連合会の通算企業年金が加わるのです。

通算企業年金というのは、解散や退職によって厚生年金基金や確定給付企業年金の加入資格を失った方々の資産をまとめて運用し、原則65歳以降に年金として受け取る仕組みで、企業年金連合会が運営・運用しています。移換時に残高に応じた事務費が徴収され、徴収後の資産について表のような移換時の年齢に応じた予定利率が付利されます。利率は高いとはいえませんが、10年国債でも0.2~0.3%という低金利の現状を思えばありがたい水準です。受け取りは原則65歳からで80歳までの保証期間付き終身年金です。

例えば、35歳0月で企業型DCの加入資格を喪失し100万円を移換した場合、男性ですと年額約8万2,700円、女性ですと6万7,400円を65歳から生涯にわたって受け取ることになります。同い年で同じ額を移換しても女性のほうが平均寿命が長い(受取期間が長い)ため年金額は少なくなるような設計になっています。終身ということで振込回数が相当な回数になることも見込まれますが、振込手数料は当初の事務費に含まれており、iDeCoのように都度差し引かれるとか、海外送金分上乗せ徴収されるようなことはありません。自分のケースで受取額をシミュレーションすることができる(https://www.pfa.or.jp/pwap/pub/shisan/nenkin)ので検討する際に活用するとよいでしょう。

通算企業年金を企業型DCからの移換先としてiDeCoと比べてみますと、移換手続きの負担が圧倒的に軽い反面、年金資産を新たに積み増しすることができない点と資産運用をすることで得られる経験や運用益によって年金資産を大きく増やす機会を放棄してしまう点は劣るといえます。ですから、私は日本人の方にはiDeCoを通じて老後資産を積み増し、増やしていくことをおススメしたいですが、海外に帰国する外国人の方の場合はiDeCoで掛け金を積み立てること自体が認められていませんから、通算企業年金に移すことが企業型DCで育ててきた自分の年金資産を確実に受け取る方法の一つになります。

そうはいっても、事務費が少なくとも1100円かかること、終身で受け取る仕組みであること、海外帰国後も連絡先などをきちんと企業年金連合会に届け出る必要があることなどを鑑みますと、先の中途引き出しができない25万円超を目安に、帰国時にあたって通算企業年金に資産を持ち込み将来受け取るという選択肢を検討するのがよいと思います。

これらの新たな仕組みは企業の大切な戦力として働いてもらう外国人にも少し優しい、時代の流れに沿ったものと言えると思います。