セールス目的や基準価額の割高感が新規設定を誘発
では、どうして乗り換えさせる投資信託を新規設定させるのでしょうか。すでにある投資信託への乗り換えでは駄目なのでしょうか。そういう疑問を抱いている方もいらっしゃると思います。これは新規設定ファンドの方が、何かと都合が良いのです。
理由は2つ考えられます。1つは、新規設定ファンドの方がセールスしやすいことです。SDGsやESG、AI、DXなど、経済ニュースなどで時折、目にするもっともらしい言葉をファンド名に冠したテーマ型投資信託が多数、新規設定されていますが、この手の投資信託であれば、営業担当が客先に行って説明する時、「今、話題のSDGsに関連した投資信託です」とか、「よくニュースで取り上げられているAIに関連した会社に投資します」などのセールストークに結び付けることが出来ます。こうして安易なテーマ型投資信託が粗製乱造され、投資信託の本数がどんどん増えていきました。
もう1つの理由は、ある程度の運用年数を経て成績を着実に伸ばしている投資信託は、基準価額の水準が高くなっていて、それによって投資家が新規で投資したいという意欲を削ぐ恐れがあるためです。これはあくまでも誤解なのですが、なぜか「基準価額の水準が高い投資信託は割高」という間違った認識が、個人の間に根強く残されています。そのため、基準価額が1万円から2万円、3万円、5万円というように値上がりしていくと、本当は成績をどんどん伸ばしているのですから、非常に強い買いの根拠になるはずなのですが、日本においてはなぜか新規資金の流入が途絶えてしまう傾向が見られるのです。
投資信託の基準価額は受益権1口あたりの純資産総額ですから、それ自体が何かに比べて割高であるとか、割安であるといった評価にはつながりません。過去からの利益の積み重ねで5万円の基準価額になった投資信託のポートフォリオが、株価の割安な銘柄のみで構成されていた場合、5万円の基準価額をして「割高」であると評価することは出来ないでしょう。つまり基準価額の水準は、その投資信託の価値が割高、割安であるかどうかを評価する基準にはならないのです。