年金はアメリカの人の老後をどの程度支えられるのか

「ふつう」のないアメリカでは、日本のように「準備すべき老後資金は2,000万円」※1といった言説がほぼありません。

※1編集部注 2019年6月、金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」が公表した報告書が発端で物議をかもした、いわゆる「老後2,000万円問題」のこと。

アメリカでよく言われるのは、退職する前の給料の80%程度を老後の年間生活費として見据えるというものです。そこからペンションやソーシャルセキュリティ年金の額を差し引いた分が準備しなければならない年額です。先ほどの都市部の収入中央値$85,000であれば、この80%である$68,000が老後の年間生活費。このうち、夫の年金$2,431と妻の年金$1,215を合わせた年間年金総額$43,758を差し引くと、$24,242が一年で足りない部分です。

これを生涯カバーするためにいくら貯めればいいか……なのですが、簡単な目安としてこの額を4%で割るという計算法があります。その結果が退職時持っていなければならない額になります。このケースでは$24,242÷0.04=$606,050となります(6,900万円程度)。これはあくまで中央値での計算なので、広く一般には当てはまりませんが、こんなところから都市部での中流の上の層では、老後資金$1ミリオン(1億1,300万円程度)は一定の目安といわれています。日本の数字と比べて大きく感じるのは、アメリカの都市部の生活費の高さとインフレ率のせいだと思います。

アメリカ「年金枯渇」問題。ファイナンシャルプランニングでは受給額の減少も考慮

ところで、このソーシャルセキュリティ年金、「本当に、予想されている額がもらえるのか」、「どのくらい頼りにしてよいのか」は気になるところです。あるリサーチによると、ソーシャルセキュリティシステムには不安があるとしているアメリカ人は71%だそうです。国がソーシャルセキュリティ年金を支払うときの財源となるのは、まずはその年に徴収したソーシャルセキュリティ税であり、次がソーシャルセキュリティ・トラスト基金の運用利子、それでも足りなければトラスト基金の元本資産(現在$2.9トリリオン弱)を切り崩していくということになります。毎年の年金として支払う必要のある額の78%はその年のソーシャルセキュリティ税収でカバーされるそうですが、残りの部分をトラストの利子でまかない、それでも足りないので毎年切り崩しが起こっています。

コロナ以前はこのトラスト基金が尽きるのが2035年と予想されていましたが、今では1年繰り上がり、2034年となっています。トラスト基金の枯渇を防ぐためには、ソーシャルセキュリティ税を上げるか、年金額を下げるか、その両方かしかなく、なんらかの対応を急ぐべき局面に来ています。

最悪、トラスト基金が枯渇すれば、78%程度しか年金がカバーされないわけですから、受け取る年金額が減額になる可能性が大です。そこでファイナンシャルプラニングでは、一応ソーシャルセキュリティ年金は予想額のまま当てにしながらも、モンテカルロ法※2という確率プログラムを使ったシミュレーションによって、10%カットなったら、20%カットになったら……とパラメータを変えて“耐久テスト”を行い、たとえカットになって大丈夫なように資金準備と生活費管理を目指しています。

※2編集部注 モンテカルロ法については、前回の「老後資金の取り崩しシミュレーションー単純計算では危ない、納得の理由」にて解説。