アメリカの公的年金「ソーシャルセキュリティ」とは

ペンションがまだもらえる団体に勤めている人でもこれほど大きな年金をもらえる人は少なく、また多くの企業ではペンション自体がありません。大多数の人にとって年金といえば、ソーシャルセキュリティ年金のみになります。

ここで注意ですが、ソーシャルセキュリティ年金はペンションとは呼ばれません。ペンションは働いている企業や団体が用意するものであるのに対し、ソーシャルセキュリティ年金は日本の公的年金に当たるもので社会保障老齢給付金。その名のまま「ソーシャルセキュリティ」と呼ばれています。その財源としては、アメリカで働くと給料の6.2%がソーシャルセキュリティ税として徴収されます。この税はソーシャルセキュリティの老齢年金、遺族年金、障害年金をカバーします。同時に、雇用者も6.2%を納めてくれ、一人あたり合計で12.4%が徴収されています。自営の人は12.4%を全額負担します。

ソーシャルセキュリティ老齢年金は、今ではほとんどの人で67歳がベースの開始年。さかのぼって62歳から支給開始でき(ただし減額される)、最大で70歳まで支給を遅らせられます(増額される)。昨今では、「my Social Security」というオンラインサイトができ、自分のソーシャルセキュリティ番号でログイン口座をつくると、今までの納税履歴が確認できたり、「〇歳で年金をもらい始めたらいくらもらえるか」のシミュレーションができるようになりました。

ソーシャルセキュリティは“一般的に”いくらもらえるのか

では、一般的な人はソーシャルセキュリティはいくらもらえるのでしょうか。これは大変答えにくい質問です。なぜなら、いつものことですが、アメリカには「一般的」とか「平均的」とか「ふつう」が存在しないからです。多種多様な人がいるので、先述したように月額のペンションを何百万円ももらう人もいれば、ソーシャルセキュリティでさえあまりもらえない人もいます。というわけで、かなり無理やりではありますが、下で「一般的」なモデルを作りだしてみます。

アメリカの都市部での収入の中央値(メジアン。2019年データ)を見ると、最も高いのはシリコンバレー地区の$130,865ですが、まあそのあたりは断トツすぎるので参考にならず、もう少し「ふつうな」都市部として、例えばコロラド州ボルダー地区とか、カリフォルニア州サンディエゴ地区とか、ニューハンプシャー州マンチェスター地区などを見ると、収入の中央値は$85,000程度です。例えば、この中央値でソーシャルセキュリティ税を払い続けたとすると、67歳に年金受給を開始するともらえる額は$2,431(月額)です。配偶者も働いていれば自分の収入に応じてソーシャルセキュリティ年金がもらえますが、働いていなかった場合は相手の月額の半分がもらえる仕組みになっています。例えば67歳の夫が$2,431もらえたら、主婦である67歳の妻は$1,215を配偶者として受け取れます。月額合わせておよそ41万円相当です。ちなみにソーシャルセキュリティに満額(受給できる上限額)というものがあるとすれば、2021年の場合は月額$3,148でした。上記の配偶者としての半額受給は、男女平等を叫び女性の社会進出が当たり前のアメリカにしては、働かない配偶者に手厚い制度だと思います。また、勤労者本人が先に亡くなったら、残った配偶者は本人に代わって本人のフル年金をもらえる(半額から全額にアップグレードされる)というのも手厚いと思います。

先ほどの、月額41万円の老後夫婦に戻りますが、この額は、アメリカの田舎ならもしかして十分かもしれませんが、都市部ではなかなか生活が成り立たない額です。なにせアメリカは、老後の医療(健康保険料、治療費、薬代)で一人月5万円ほど見る必要があり、さらに返済済みの持ち家であっても年々の固定資産税がばかにならず、都市部では年間100万円程度払うことも少なくありません。よって、多くの場合ソーシャルセキュリティに加え、確定拠出制度(401(k)など)やIRA(個人リタイヤメント口座)で資金準備をすることになります。