日本人は戸惑うことも!? 数世紀前から続く欧米のチップ文化

受けたサービスへの感謝として、チップをいくら渡せば良いかは、日本人がしばしば戸惑うことだ。筆者もかつてボストンの空港でタクシーを拾い予約済みのホテルに着いたものの、提示されたタクシー料金から支払うべきチップ金額がとっさに浮かばず、およその勘でチップを支払った。穏やかな雰囲気の高齢運転手は、「チップをもう少し」と済まなさそうに請求してきた。その紳士的態度はいまだに忘れられない。

中には後味の悪い請求をする人もいるそうだが、それ以来チップの計算には慎重になった。チップは、過去には請求額の10%が普通であったが、近ごろは20%が最低の相場のようだ。アメリカの一般勤労者の連邦政府による最低賃金は、1時間当たり7.25ドル(800円弱)だが、チップ労働者は2.13ドル(230円強)だ。もっとも、カリフォルニア州の一般労働者の場合は4ドル(約1,540円)などと州による格差はあるものの、どの州のチップ労働者も、チップなしでは生活できないのが現状だ。

最近はクレジットカードによるチップ支払いもある。請求額の支払いをすべく店の人が示した端末にクレジットカードを通すと、支払い処理が終わる。しかし、その後に端末の向きを変えられ、今度は画面にチップの表示が表れ、選択肢の中から選ぶことが求められる。もちろん、どんな支払方法であれ、サービス内容に不満がある場合には、支払う必要はない。

一方、コロナ禍のもとウィルス感染のリスクを冒しつつ第一線で働く人への感謝の気持ちを表すべく、たとえテイクアウトだけの場合でも50%という破格のチップを支払う人がいるそうだ。

そもそも、チップは数世紀前にイギリスのコーヒーハウスで始まったとされる。「迅速な対応を確実にするために」(To Insure Promptitude)という掲示とともに、硬貨を投げ入れるための鉢が置いてあったそうだ。チップ(Tip)は、この頭字語である。

感謝が循環する…欧米の恩送りの習慣

さらに欧米には、恩送り(Pay it forward)という慣習もある。日本の「小さな親切運動」や「一日一善」などに通じるともいえる。他人に親切な行為をする際、ぜひこの先いつか他のだれかにも同じような親切をしてあげてくださいとお願いすることだ。

飛行機に乗っていて、リラックスしたくなり、ワインを一杯注文した人がいた。フライトアテンダントが直ぐにワインを運んでくれたので、支払いをしようとすると、支払う必要はありませんとの返答だ。3列前の乗客が、これからドリンクを請求する5人分の代金を支払うと申し出ていると説明したそうだ。まさに恩送りの一例だ。

また、こんな話も聞いたことがある。外国への出張中に体調を崩し、部屋で2~3日休息せざるを得ないことになった日本人がいた。やっと起き上がれるようになり、レストランに降りていき、食事を済ませ支払いをしようとすると、「お支払いは結構です。あちらのご婦人がお支払いを済ませました」ということだ。早速、その中年の女性にお礼を告げたそうだが、いかにも病み上がりの東洋人とみて、かわいそうだと思っての行為だったのかもしれない。

最近のコロナ禍で医療従事者の人たちは休む暇もない。そうした尽力に感謝の意を表すべく、レストランで食事をした人が、請求額以外に500ドル(約55,000円)に余る金額を店に残し、次にやって来る医療関係や救急隊の人の食事代に充てるようにと依頼する事例もあったそうだ。

 

執筆/大川洋三
慶應義塾大学卒業後、明治生命(現・明治安田生命)に入社。 企業保険制度設計部長等を歴任ののち、2004年から13年間にわたり東北福祉大学の特任教授(証券論等)。確定拠出年金教育協会・研究員。経済ジャーナリスト。
著書・訳書に『アメリカを視点にした世界の年金・投資の動向』など。ブログで「アメリカ年金(401k・投資)ウォーク」を連載中。