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2021年、スエズ運河で日本企業が所有するコンテナ船が座礁し、エジプトが1000億円もの損害賠償を請求するという事件が起こりました。スエズ運河は1956年7月26日にエジプトが国有化を宣言しており、海上交通で重要な拠点を一国が管理する状態が続いています。

2万隻が通過する物流の要

地中海と紅海をつなぐスエズ運河は、アジア・ヨーロッパ間における海上輸送の要衝です。もしもスエズ運河を通らない場合、アフリカ大陸を南回りで迂回する喜望峰ルートを進まねばなりません。仮に日本(京浜港)からオランダ(ロッテルダム港)へ向かう場合、スエズ運河経由の航行距離は2万728キロメートルほどですが、喜望峰ルートだと2万6867キロメートルと、6000キロメートル以上も伸びてしまいます(出所:日本港湾協会 港湾用語の基礎知識)。

別の選択肢としてユーラシア大陸を北回りに進む北極海ルートも模索されていますが、砕氷または耐氷の性能を備えた船が必要となること、また冬季は通行が困難となることから、積極的には利用されていません。取扱貨物量は2020年で3300万トンほどでした(出所:国土交通省 北極海航路の利用動向について)。

これらから、アジアからヨーロッパを目指す船の多くがスエズ運河を通行することになります。2021年は約2万隻、約12億7000万トンもの荷物が通過しました(出所:ジェトロ)。

冒頭の座礁事故は、海運市況がコロナショックから回復していた2021年3月に発生しました。運航が再開されるまでは約1週間かかり、400隻以上が足止めされたとみられています。需要が強まる中でスエズ運河が閉ざされたことから、コンテナ船運賃の世界的な高騰を招いたと指摘されています。

【北米コンテナ運賃指数の推移(月別、2019年12月=100)】

日本海事センター コンテナ運賃動向より著者作成

スエズ運河を管理するエジプトは、当初求めた1000億円もの損害賠償を600億円に減額して船主側に請求しました。最終的な条件は明らかになっていませんが、両者は同年7月に協議を終え、事故を起こしたコンテナ船はおよそ100日間の拘留から解放されました。損害額の一部は「P&I保険(船主責任保険)」から賄われたとみられています。