結局、長期投資には意味がないのか?

このような話をすると、「長期投資でリスクが下がらないならば、長期投資をする意味がないのではないか」と思ってしまう人もいるかもしれません。でも私は、「長期投資に意味がない」なんて一言も言っていません。やはり長期投資をすることには、リスク管理上、意味があると考えています。

長いこと預貯金に慣れ親しんできた日本人にとって最も関心の高いリスク指標は、やはり元本割れ確率ではないでしょうか。この元本割れ確率を用いて長期投資の効果を見ていきたいと思います。ここでは、株式の期待リターンを5%、リスク(標準偏差)を20%と仮定し、1年間および10年間、投資した場合の元本割れ確率を計算してみます(※正規分布とします)。1年間投資する場合、上述の期待リターンとリスクを用いると、元本割れする確率は約40%と結構高くなりますが、10年間運用する場合には、分布は、期待リターンが5%×10年=50%、リスク(標準偏差)が20%×√10%=63.2%となるため、これを用いると、元本割れリスクは21%程度まで下がります。

前述の通り、確かに長期投資では、“累積”リスクは上がるかもしれませんが、投資期間が長くなればリターンもしっかりと積み上がるため、元本割れ確率は下がる傾向があるのです。これは元本割れ確率を重視する日本人にとっては、長期投資の効果を表すものとして魅力的なのではないでしょうか。

そもそも投資家にとってのリスクとは何か?

今回は長期投資のリスクについて、“年率”と“累積”のリスク(標準偏差)と元本割れ確率といった指標を用いて解説しました。大事な点は、一口にリスクと言ってもその特徴は異なるため、どの指標を用いているかによって、結論は大きく変わるということです。私が示した簡単な分析では、長期投資によって、より投資家にとって意味のある“累積”リスクは上がってしまいますが、一方で、元本割れ確率については、長期投資になるにつれて減少していくことも分かりました。

このように長期投資によって、何が改善し、何が悪化するのかを理解したうえで長期投資を実践したほうが、納得感が高くなると思います。これに限らず、投資の世界では、表面的な言葉をうのみにするのではなく、一歩踏み込んで熟考してみてください。