finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート
永田町・霞が関ウォッチャーのひとり言

【文月つむぎ】日証協の「新NISA1年調査」を精読する ゴールベースアプローチの意識が低い?

文月つむぎ
文月つむぎ
2025.02.18
会員限定
【文月つむぎ】日証協の「新NISA1年調査」を精読する ゴールベースアプローチの意識が低い?

2月12日、日本証券業協会が「新NISA開始1年後の利用動向に関する調査結果(速報版)」を公表した。2024年中に新NISAで金融商品を購入した人(7,610名)を対象に、購入・売却に係る金額や銘柄数、商品のほか、その理由及び損益などを調査した結果となっている。

調査対象者の属性を見ると、男女比率は6対4、平均年収は454万円(男性548万円、女性316万円)で、全体の4割が年収300万円未満となっている。また、金融資産保有額(現金・預貯金とリスク性金融商品の合計額)のウェイト平均は1,446万円(男性1,562万円、女性1,259万円)で、同保有額が300万円未満の割合は27.4%(男女でほぼ同じ)となる中、20代でもウェイト平均で男性が524万円、女性が450万円とまずまずの金融資産を保有している。また、「金融経済教育の経験あり」は23.0%となっており、2022年の金融広報中央委員会による金融リテラシー調査(18~79歳の個人3万人を対象)の「学校等において金融教育を受けた者」の割合7.1%の3倍強に達する。

これらより(今回の調査対象となった)新NISA利用者は、比較的金融リテラシーが高く、既に資産形成に取り組んでいる方々が多いことがうかがわれる。

いくつかの調査結果を踏まえ、筆者の感想を述べてみたい。

① つみたて投資枠の平均購入金額は47.3万円(男性52.0万円、女性40.7万円)で、投資上限額(120万円)をフル活用した者は15.3%。また、成長投資枠の平均購入金額は103.3万円(男性109.7万円、女性91.2万円)で、投資上限額(240万円)をフル活用した者は16.6%

両枠とも平均4割の利用率で、枠をフル活用した方が15%程度となっている。また、(枠併用のケースを考慮せず)単純計算すると、男女とも、つみたて投資枠は平均年収の10%前後、成長投資枠は平均的な金融資産保有額の7%程度を投資に回していることとなる。よって、枠の設定額としては大きすぎず、小さすぎず、良い水準だと思われるほか、利用者もあまり無理のない範囲で投資している様子が見て取れる。

 

② つみたて投資枠では、購入銘柄数は1銘柄が32.5%と最多(平均購入銘柄数は2.5 銘柄)で、売却銘柄数は売却していない者が83.2%と最多(平均売却銘柄数は0.3銘柄)。一方、成長投資枠では、購入銘柄数は1銘柄が31.9%と最多(平均購入銘柄数は3.1 銘柄)で、売却銘柄数は売却していない者が75.3%と最多(平均売却銘柄数は0.6銘柄)

売却していない者が8割前後というのは、長期投資の観点から好ましい結果と言えよう。一方、詳細なデータを見て気になったのは、5銘柄以上購入している者がつみたて投資枠で約1割に及んでいる点だ。分散投資の観点から複数銘柄を保有することは悪い話ではないが、既に分散投資が図られている投資信託やETFを5銘柄以上保有するというのは効果的に見てどうだろうか。

そもそも銘柄が増えれば、それだけ購入後のモニタリングの手間が多くなる。また、例えば「オルカン(全世界株式)」と「S&P500(米国株式)」など、一見投資先が異なるように見えて、実は投資先の多くが重なる銘柄を保有する場合は、銘柄分散のメリットは限定的だろう。地域や原資産(株式、債券、不動産、オルタナティブなど)が異なる銘柄に分散投資する場合でも、相関度合いを確認しながら配分を適宜調整しないと分散効果を十分得られない可能性がある。

投資経験の浅い方は、シンプルな形から入ったほうが投資が長続きするように思われる。まずは1~3銘柄にて基本的な知識や経験を習得し、投資額が相応の水準になってきたら、適切なポートフォリオ構築に向けて、銘柄数を増やす、あるいは銘柄の入れ替えを行う等といったことを検討していけば良いのではないか。

 

③ 新NISAを始めた動機・目的は、両枠とも「将来・老後の生活資金」が50%台でトップ、次いで「資産形成自体が目的」(40%台)が続く。「特に動機・目的はない」も10%台の回答。

気になるのは「資産形成自体が目的」や「特に動機・目的はない」との回答が目立つ点だ。常にゴールベースアプローチであるべきと主張するつもりはないが、「どのような性質の資金を、いつまでに、どの程度の額を目指すか」といったゴールが見えないと戦略の立てようがないし、心の構え方もわからないだろう。投資家がゲーム感覚でやみくもに、時に荒れ狂う市場に臨むとすれば、損失を被る局面に出会うと簡単にギブアップするのではないか。もし、顧客に長期投資を望むのであれば、「ゴールを持ちましょう」とアドバイスするのが我々業界人の務めかと思う。

 

このほか、調査結果では所々に「金融経済教育の経験別」のデータを示し、経験者の方が投資に対するスタンスが優れており、良い成果(損益)を得ているといった旨のコメントがなされている。例えば、つみたて投資枠での購入銘柄の理由として、「金融経済教育の経験ありの者は、『ポートフォリオ(保有銘柄)の多様化のため』が25.5%と、経験なしの者の17.7%を大きく上回っており、金融経済教育を受けた経験が分散投資の促進に寄与している可能性があると考えられる。

また、経験ありの者は、購入理由の多くの項目において、経験なしの者よりも購入理由を回答した割合が高い傾向にあるため、金融経済教育を受けた経験に基づき投資判断を行っている可能性があると考えられる」などと分析し、結果として「金融経済教育の経験ありの者は、経験なしの者よりも、新NISAの損益がプラスである者の割合が高く(つみたて投資枠で88.5%対81.1%、成長投資枠で78.1%対67.5%)、金融経済教育を受けた経験の有無が損益に寄与している可能性があると考えられる」としている。

日証協としては、「可能性がある」と慎重な言い回しをしつつも金融経済教育の必要性・有益性を強調したいのだろう。想いは良くわかるが、「過去1年間の損益だけを示して、『ほらっ、経験ありと無しとではこんなに結果が違うでしょ!』と言われてもねえ…」と感じる読者もいらっしゃるのではないだろうか。こうした懸念を払しょくするためにも、より長期のデータを踏まえて、改めて評価するべきかと思う。

2月12日、日本証券業協会が「新NISA開始1年後の利用動向に関する調査結果(速報版)」を公表した。2024年中に新NISAで金融商品を購入した人(7,610名)を対象に、購入・売却に係る金額や銘柄数、商品のほか、その理由及び損益などを調査した結果となっている。

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
1

関連キーワード

  • #NISA
  • #金融リテラシー
前の記事
【文月つむぎ】「老後2000万円問題」から6年、いまだに資産運用より節約術のほうがウケる世相を憂う
2025.02.10
次の記事
【文月つむぎ】「NISAは現役世代向け」という誤解 シニア層への普及を急ぐべき政治的背景とは
2025.03.11

この連載の記事一覧

永田町・霞が関ウォッチャーのひとり言

【文月つむぎ】運用立国議連の新「緊急提言」を読み解く!NISA、税制の見直しで対応が求められる3つのポイント

2025.12.04

【文月つむぎ】証券口座乗っ取り被害ゼロへ 金融庁の新監督指針を読み解く

2025.11.07

【文月つむぎ】片山さつき新大臣に贈る言葉

2025.10.28

【文月つむぎ】統合・再編議論の先は? 金融庁WGが照らす地域金融機関の未来

2025.10.20

【文月つむぎ】発足はいつ?高市政権下での金融機関の役割

2025.10.10

【文月つむぎ】日証協の「個人投資家意識調査」を熟読すべし 新規投資家層の早期失望に備えよ

2025.10.06

【文月つむぎ】iDeCoがんばれ、NISAに負けるな! 
現状打破へ「7つの提言」

2025.09.22

【文月つむぎ】NISA拡充策の議論が本格化、押さえておきたい3つのポイント

2025.09.12

【文月つむぎ】投資初心者を狙う「フィンフルエンサー」の脅威に備えよ 法規制があいまいな「グレーゾーン助言」の実態

2025.08.29

【文月つむぎ】"フィーベース信仰"に一石? IFA団体が世に問う「顧客本位の新常識」とは

2025.08.05

おすすめの記事

資産運用立国の実現に向けた官民対話の新たな挑戦──「資産運用フォーラム」が描く日本市場の未来とは
③日本の金融リテラシー向上へ、将来の資産運用を支える人材を育てる

finasee Pro 編集部

資産運用立国の実現に向けた官民対話の新たな挑戦──「資産運用フォーラム」が描く日本市場の未来とは
②DX・企業価値・サステナ・オルタナの4分野で日本を動かす

finasee Pro 編集部

資産運用立国の実現に向けた官民対話の新たな挑戦──「資産運用フォーラム」が描く日本市場の未来とは
①国内外の金融50社超が参加!資産運用フォーラムが目指すもの

finasee Pro 編集部

日本初のハンセンテック指数連動ETFが東証上場―注目浴びる“中国テック株”が投資の選択肢に

Finasee編集部

10億円以上の資産家が多いのは山口県、北陸ではNISA活用が進む。県民性から読み解く日本人の投資性向とは?

Finasee編集部

著者情報

文月つむぎ
ふづきつむぎ
民官双方の立場より、長らく資産運用業界をウォッチ。現在、これまでの人脈・経験を生かし、個人の安定的な資産形成に向けた政府・当局や金融機関の取組みについて幅広く情報を収集・分析、コラム執筆などを通し、意見を具申。
続きを読む
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
経営、本部、販売現場が価値観を共有し「真のコンサルティング営業」の実践へ case of ちゅうぎんフィナンシャルグループ/中国銀行
【金融風土記】東日本大震災からまもなく15年、福島の金融勢力図を読む
企業型確定拠出年金の制度運営に中小企業ならではの距離感を活かす―新宮運送が構築した“一人ひとりに寄り添う”サポートの形
第16回 資産運用にまつわるさまざまな常識を疑え!【総集編】
「資産運用において疑うべき常識」を振り返る
【プロはこう見る!投資信託の動向】
NISAに必要か?「毎月分配型」「債券メイン」ファンド、「特定の年齢層対象の制度」
新たな商品・制度の導入は、投資家のリスク許容度・理解度が鍵
【連載】こたえてください森脇さん
⑫元本保証でない商品の販売を嫌がる職員への働きかけ
石破カラー残る「地域金融力強化策」、高市政権はいかに脱色・染め直しをするか?
【連載】こたえてください森脇さん
⑬若手の職員への教育が不足。効果的な方法は?
J. フロント リテイリングに聞く企業型確定拠出年金制度運営の秘訣―継続投資教育の参加率が驚異の80%超えの理由とは?
三井住友銀行の売れ筋で順位を上げるファンドは安定重視、株式ファンドを圧倒するリターンを残すファンドとは?
経営、本部、販売現場が価値観を共有し「真のコンサルティング営業」の実践へ case of ちゅうぎんフィナンシャルグループ/中国銀行
「中途半端は許されない」不退転の覚悟で挑むリテール分野への新たなるチャレンジ case of 三菱UFJフィナンシャル・グループ
【金融風土記】東日本大震災からまもなく15年、福島の金融勢力図を読む
【プロはこう見る!投資信託の動向】
NISAに必要か?「毎月分配型」「債券メイン」ファンド、「特定の年齢層対象の制度」
新たな商品・制度の導入は、投資家のリスク許容度・理解度が鍵
J. フロント リテイリングに聞く企業型確定拠出年金制度運営の秘訣―継続投資教育の参加率が驚異の80%超えの理由とは?
第16回 資産運用にまつわるさまざまな常識を疑え!【総集編】
「資産運用において疑うべき常識」を振り返る
「支店長! お客さまへ良い提案をするためのコンサルティング能力はどうやって向上させればいいですか。何に関心を持つべきでしょう」
【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉖
~米国投資信託最新事情
ミューチュアルファンド初の30兆ドル突破も、米国株ファンドから過去最大の資金流出
【運用会社ランキングVol.3/販売会社一般編②】販社からの評価を高める「野村」の底力と「フィデリティ」の運用力、2年連続で総合トップの「アモーヴァ」は安泰か
【運用会社ランキングVol.1】販売会社が運用会社に求めるものは、運用力か人的支援か? 2025年の評価を発表!
【金融風土記】東日本大震災からまもなく15年、福島の金融勢力図を読む
経営、本部、販売現場が価値観を共有し「真のコンサルティング営業」の実践へ case of ちゅうぎんフィナンシャルグループ/中国銀行
【プロはこう見る!投資信託の動向】
NISAに必要か?「毎月分配型」「債券メイン」ファンド、「特定の年齢層対象の制度」
新たな商品・制度の導入は、投資家のリスク許容度・理解度が鍵
【連載】こたえてください森脇さん
⑪預かり資産業務に対するマネジメント層の理解が低い
【運用会社ランキングVol.1】販売会社が運用会社に求めるものは、運用力か人的支援か? 2025年の評価を発表!
「中途半端は許されない」不退転の覚悟で挑むリテール分野への新たなるチャレンジ case of 三菱UFJフィナンシャル・グループ
【みさき透】高市内閣で「運用立国」から「投資立国」へのシフトが加速へ
【連載】こたえてください森脇さん
⑫元本保証でない商品の販売を嫌がる職員への働きかけ
長野市vs松本市"不仲説"を乗り越え統合の八十二銀・長野銀が、「もう取引しない」と立腹の取引先と雪解けに至るまで
【文月つむぎ】証券口座乗っ取り被害ゼロへ 金融庁の新監督指針を読み解く
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2025 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら