仲介業協会の提言が面白い
7月24日に、IFAの業界団体である日本金融商品仲介業協会(JIFA)が「『顧客本位』を極めるためのアドバイザーのベスト・プラクティス」を公表した。同協会のIFA法人会員(及び所属するアドバイザー)向けに、3部構成の下、11項目にわたりベスト・プラクティスを列記している。よく練られた文章であり、時間をかけて作成したことがうかがわれる。
IFAに限らず、リスク性金融商品の販売に携わる方々全てに参考になる内容だと思われ、以下、概要並びに筆者の注目点をご案内したい。(下線は筆者)
「ベスト・プラクティス」の概要
Ⅰ.アドバイザーのパーパス
1. アドバイザーの存在意義と役割:顧客とその家族の話を聞き続け伴走する
Ⅱ.アドバイザーがアドバイスやサービスの一環として提供することが望ましいもの
2. 継続的なレビューを伴う包括的なゴールベース・ファイナンシャルプランニングの提供
3. 中長期分散アプローチによる資産形成・投資の実行
4. 自社で正式承認した一貫性ある長期資産配分モデルの確保と提示
5.「リスク許容度」だけではなく「リスクニーズ」も考慮
6. 顧客とその家族の状況アップデートと理解を深めるために必須の継続的なレビュー
Ⅲ.利益相反の防止と牽制等
7. 公正性、透明性のあるデューデリジェンス徹底による商品スクリーニングと選択
8. 報酬・評価や利益相反事項の開示
9. 運用資産残高連動のフィーベースの報酬体系や事業モデルの奨励
10. フィーベース事業モデルでも完全には排除しきれない利益相反懸念への留意と対策
11. 資産収益率等の数値基準による自主規律
斯様に「顧客との伴走」、「ゴールベース」、「中長期分散アプローチ」、「継続的レビュー」、「フィーベース」など聞き慣れた単語が並ぶ中、筆者は「リスクニーズ」、「フィーベースでも排除しきれない利益相反懸念」、「数値基準による自主規律」に注目している。
注目の新ワード①「リスクニーズ」
「リスクニーズ」について、同プラクティスでは、「中長期分散投資のリスク水準選定においては、単純な『リスク許容度』判定のみ機械的に鵜呑みにするのではなく、ゴール実現のために必要な中長期分散投資の期待リターン(『リスクニーズ』)も考慮した上で、顧客として望ましいポートフォリオの選択を支援することが望ましい」と記し、「これは、年金運用における中長期的将来の支出から逆算した資産運用のあるべき中身をマッチさせる一般的なアプローチ(『ライアビリティ・ドリブン・インベスティング』)を個々の顧客とその家族ごとに寄り添ってカスタマイズするもの」と説明している。
筆者が理解するに、「ゴール実現のための運用目標額や達成時期(将来キャッシュフロー)を踏まえ、それに(最低限のリスクで)マッチするポートフォリオを提案すべし」ということかと思う。「リスク許容度」だけを意識したポートフォリオ提案の場合、往々にして、許容範囲内で最大限のリスクをとらせて期待リターンを最大化させるといったことを考えがちであるが、リスクテイクの最適化・最小化も重要であるということだろう。これはALMにも通じる重要な指摘かと思う。
注目の新ワード②「フィーベースでも排除しきれない利益相反懸念」
「フィーベースでも排除しきれない利益相反懸念」については、「フィーベース事業モデルであっても、パフォーマンスが悪い状況等を放置する、あるいは、投資家の負担する総コストが割高であったりする状況を許容してはならない。また、継続的レビューを適正な頻度以上で実施しない、もしくは、ポートフォリオのモニタリングを怠る(リバースチャーニング)などの注意義務違反を許容してはならない」としている。
また、「コミッションベースの報酬体系については、資産形成層等への中長期分散投資などにおけるアドバイスギャップ(運用資産残高が小さいためにアドバイザーへのアクセスができずに、アドバイスをもらえないこと)を解消する手段として、フィーベースよりも有用または顧客にも有利な状況もありうるため、全否定されるべきものではない」とも記しており、「フィーベースであれば無条件にベストプラクティスというものではない」ことを強調している。
とかく、フィーベースを究極の顧客本位の報酬体系と見做しがちだが、「提供するサービスが手数料や顧客ニーズに見合っている」ことが大前提であることを改めて意識すべきという指摘だろう。
注目の新ワード③「数値基準による自主規律」
「数値基準による自主規律」については、「顧客にとって不利となる利益相反行為を牽制するために、フィーベースまたはコミッションベースのいずれの事業モデルにおいても、資産収益率(預かり資産残高に対する受け取り手数料の割合。※筆者追記)等の数値基準の上限による自主規律を意識的に設定し遂行することが望ましい」と記している。こうしたデータを使って、過度な乗り換え営業により、回転売買(チャーニング)を強いていないかを「見える化」することは、利益相反の芽を摘み取る上で有効な手段であり、IFA業界団体が自主開示に取り組む姿勢を見せたことは高く評価し得る。
このほかのデータとして、金融庁が公表を促す共通KPI(投資信託等の運用損益別顧客比率など)や契約更新率、平均契約年数、苦情発生件数などを公表することで顧客本位度や顧客信頼度を示すことも、玉石混交と言われるIFA業界の中で差別化を図る上で有益であると思われる。ぜひとも浸透・定着することを期待しているが、こうした見える化がIFA業界団体の取組みだけでは、なかなか浸透しないというのであれば、金融庁が後押しすることも検討すべきかと思う。
我が国において、家計の安定的な資産形成をさらに浸透・定着させるには、NISA やiDeCo等の非課税制度の普及に加え、顧客本位のアドバイスを提供する環境作りが欠かせない。口座開設や銘柄選定(の支援)、購入後のフォローアップやリバランス(支援)等をワンストップで行うアドバイザーとして、顧客本位を極めたIFAのニーズはますます高まるものと思われる。