本提言では、NISA拡充策として以下の項目が挙げられている。
- こども支援NISA
- NISA対象商品の拡充(債券中心の投資信託など)
- 商品の入れ替えをしやすくするための制度対応
- 定期・自動的な取り崩しサービスの普及
一方で、「高齢者のニーズに沿った商品(プラチナNISA)の導入」については、「引き続き議論を継続する」としている。どうやら、このトーンダウンの背景には、高齢者向けの商品開発の遅れがあるようだ。
それぞれの項目について詳しく見ていこう。
「こども支援NISA」について、今回の提言では「NISA利用者に支持されてきたシンプルな制度設計、高い利便性を損なうことなく、こどもが成人するまでの様々なライフイベントへの準備にもその資金を活用できるような柔軟な仕組みとすること」と記載している。
これは、口座名義人である未成年者が18歳になるまで原則として出金ができないという制約もあって、あまり普及せずに2023年末で制度終了した「ジュニアNISA」の教訓を踏まえての提言と考えられる。しかしながら、政府内では富裕層優遇との批判を避けるため、資金引き出しの厳格化はやむを得ないという意見も強くあり、単純に「対象年齢を引き下げる」という話では済まなさそうだ。
公社債のNISA対象化に現実味
さらに、「商品の入れ替えをしやすくするための制度対応」(いわゆるスイッチング)についても、やはり制度設計は難しいようで、来年度中に対応が図られるかは微妙といった感が、ここにきて漂い始めている。
こうした中、「公社債のNISA対象化」は成就する見込みが高い。政府は、従来の株式・投信中心の非課税枠に債券を組み込むことで、リスクプロファイルの選択肢が広がることを期待している。足元の金利環境の変化もあり、債券の位置づけが明確に改善していることも追い風だ。
ちなみに、11月20日に開催された参議院財政金融委員会において、国民民主党の委員より、「英国のISAに倣い、日本でも国債をNISAの対象にすべき」との提案がなされた。
これに対し片山財務大臣は、国債が元本保証の性質を持つ点に触れ、税制優遇と組み合わせることの妥当性について慎重な姿勢を示している。NISAの趣旨がリスクマネー供給であることを踏まえれば、国債を含めるかは政策的判断が分かれる領域であろう。
緊急提言には、「定期売却サービスの活用促進」が明記された。長寿化に伴い、資産形成の入口だけでなく、出口を制度的に支える必要性が高まっていることが背景にある。しかし、業界関係者からは、足元でこのサービスに関する利用者の認知度は低く、普及が遅れているとの声が聞こえてくる。
こうした中、政府が出口サービスを宣伝すれば、顧客の資産取り崩しサービスに対する認知度や安心感は大いに増すだろう。政府が同サービスの活用を促すメッセージを明確に出したことで、金融機関としては今後、キャッシュフロー設計ツールとしての有効利用を進める余地が広がるものと思われる。

