増税には政治的な制約があり、歳出削減にも限界がある以上、国債発行は現実的な選択肢であり続ける。
こうした中、問われるべきは「どれだけ発行するか」という量的な問題だけでなく、「誰に、どのような形で保有してもらうか」という、より本質的な制度設計の巧拙ではないかと思う。
金利上昇の「追い風」と、その先の持続性
財務省の公表データによると、近年の金利上昇を受け、個人向け国債発行額は、令和5年が約3.5兆円、令和6年が約4兆円、令和7年が約5.3兆円と右肩上がりで増加している。ちなみに、直近の令和8年1月募集の個人向け国債の金利(税引前)は、3年固定金利型で年1.39%、5年固定金利型で年1.59%と、2003年の発行開始以来、最高レベルの利回りが設定された。銀行の預金金利に比べ、魅力的な水準となっており、さらなる発行額の増加が見込まれる。
しかし、この「追い風」がいつまでも続く保証はない。金利環境は常に変動するものであり、金利水準に依存した販売戦略では、風向きが変わった途端に勢いを失う可能性がある。
真に持続可能な国債消化を実現するためには、金利の変動に左右されない、より強固な制度的基盤を構築することが不可欠だ。以下、筆者なりに、この課題に対する施策を考えてみた。
NISAによる安定資産枠の創設
第一に、NISAにおける国債の位置付けの見直しだ。
新NISAの導入により、「貯蓄から投資へ」の流れは加速したものの、依然として家計金融資産の過半が現金・預金で占められており、その額は1,100兆円超に達する。この巨額な資金の多くは、依然として投資への最初の一歩に対する「不安」から、制度の外にとどまっているものと思われる。
そこで、NISAの対象商品に国債や国債連動型商品を加えては如何だろうか。これにより、投資意欲はあるもののリスク許容度が低い層を市場に引き込む強力なインセンティブとなる。
なお、以前も取り上げた通り、国債のNISA対象化については、25年11月20日に開催された参議院財政金融委員会において、国民民主党の委員からも、「英国のISAに倣い、日本でも国債をNISAの対象にすべき」との提案がなされていることを付け加えておく。
相続税インセンティブの導入を
第二は、長期保有を促す相続税インセンティブの導入である。
国債は、短期的な売買の対象となるよりも、長期にわたり保有されてこそ、その安定的な資金調達手段としての真価を発揮する。そこで、一定期間以上保有された国債について、相続税評価の一部軽減を認める仕組みを導入すれば、国債の保有期間の粘着性は飛躍的に高まる。
また、相続人が国債を引き継ぎ、これを一定期間保有した場合に追加的な控除を認める設計とすれば、国債は世代を超えて保有される資産となる。これは国にとって安定的な資金調達手段となるだけでなく、家計にとっても計画的な資産承継の選択肢を広げることにつながる。国債を売って終わりの資産から、引き継ぐ資産へと位置付け直すのだ。
法人向け個人国債の創設
個人向け国債の販売促進について議論する財務省主催の「国債トップリテーラー会議」では、国債消化の裾野を広げるための新たな試みとして、個人向け国債の法人版の創設が検討されている。これは、単なる国債の販売促進にとどまらず、企業の余剰資金をより安定的な形で国の財政に還流させる可能性を秘めている。
ここでポイントとなるのが、既存の新窓販国債との違いだ。
新窓販国債は、市場で流通する利付国債を個人・法人向けに販売するもので、市場金利に連動するため価格変動リスクを伴う。よって、投資家は、市場価格の変動により元本割れする可能性を考慮する必要がある。
一方、検討が進んでいる個人向け国債の法人版については、個人向け国債と同様に、発行後1年経過すれば中途換金が可能で、元本保証が前提となる商品設計が想定されている。変動金利型であれば、金利上昇時には利回りが向上し、金利変動リスクを抑えつつ、安定的な運用が期待できる。
この法人版の導入は、企業の運転資金や内部留保など、比較的短期間で使う予定のある資金の運用先として、大きな魅力を提供するだろう。特に企業の資金担当者は安定性と安全性を重視する傾向が強く、元本保証型の商品に対するニーズは高い。新窓販国債が投資性商品としての性格が強いのに対し、個人向け国債の法人版は、より預金に近い感覚で利用できるため、これまで国債投資に慎重だった企業や宗教法人、マンション管理組合などの資金を引き出す有効な手段となり得る。

