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アート投資とM&Aの“意外な共通点”とは?作品の値段が決まる仕組みと日本市場の行方

川辺 和将
川辺 和将
金融ジャーナリスト
2026.02.28
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アート投資とM&Aの“意外な共通点”とは?作品の値段が決まる仕組みと日本市場の行方

一見すると縁遠いようで切っても切れない関係にある、アートとお金――経済状況が変化する中、美術作品は鑑賞の対象としてだけでなく資産保全、投資の手段として、その立ち位置を変えてきているようです。今回は、先鋭的な現代アート作品を扱うことで知られる東京画廊の代表取締役社長・山本豊津氏に、作品の価格形成の仕組みや国内マーケットの課題と展望について、考えを聞きました。

――画廊を訪れて値札を見ると、数万円から数百万円、それ以上のものまでといった価格の幅の大きさに驚くと同時に、作品の値段がどのように決められるのかが気になります。

前提からお話すると、株式の世界で未上場銘柄と上場銘柄のそれぞれに取引の場があるように、アート作品にも、一次市場(プライマリー)と二次市場(セカンダリー)が存在します。画廊は作家が制作した作品を直接販売するプライマリーの場であり、オークションはセカンダリーの場に相当します。

画廊を経営していると、よく、「山本さんは作品の値段をどうやって決めているんですか」といった質問を受けます。証券取引所における株式の売買のように価格の動きが誰にでも見えるわけではない作品取引は、市場の外側の目にはブラックボックスのように映るのかもしれません。

しかし、作品の価格は私たち画商が気ままに決められるものではありません。というのも、個々の作品に付けられる価格とは、その作品に関するある種の情報価値の表れだからです。私たちが価格を設定する際には、まず目の前の作品が、美術史の文脈においてどのように位置付けられるかを念頭に置きます。その上で、関連性が高い他のアーティストの評価がどうなっているか等といった情報を整理した上で、合理的な価格帯を算出していくのです。

 

――とはいえ株式のように市場が公開されているわけではないので、画廊ごとに作品の評価が食い違う可能性はありませんか。

例えば、同じアートフェアに2つの画廊が出展し、どちらも巨匠・横山大観が制作した同じ構図の作品を販売しているとしましょう。画廊Aでは1000万円、画廊Bは2000万円の値段をつけています。すると来場者は、二つの作品を比較してなぜ1000万円の価格差が生じるかを考え、分からない場合にはそれぞれの画廊に根拠を尋ねるでしょう。画商は常に価格に対する説明責任を負う存在であり、その責任が果たせないのであれば、作品価格を見直す必要があるというわけです。公開市場が存在せず、相対取引をベースとしながらも、結果的に合理的な相場が醸成される点では、株式よりも不動産の取引に似ているかもしれません。

画廊とは単に作品を売買するだけでなく、作品の価値を決定する情報そのものを収集・整理し、発信する役割も担っています。私のギャラリーは主に日本の現代アートを扱っていますが、近代、そして前近代の作品も同時に比べるようにしています。これは、現代アート作品の価値を理解するうえでは、そこにいたる日本美術の歴史的経緯を踏まえる必要があると考えているからです。

日本人作家の作品は現在、国際的に適正な評価を受けているとは言い難い状況であり、特に近現代美術における海外作家の作品との価格差は、大きな課題です。そこで、近代美術、現代美術の根幹を成している、書や華を含む前近代文化の深みについても情報発信を続けることで割安的状況を脱し、日本市場の存在感を高めていければと願っています。

海外では近頃、日本の前近代、特に禅文化に対する関心が高まりつつあります。国外で侍に焦点を当てたドラマが注目を集めたように、日本人自身の近代以前への関心も高まり、大きな潮流の変化を感じているところです。

 

――かつて主要な買い手としてマーケットを支えた公立美術館においては、予算的な制約が厳しさを増しています。少子高齢化で日本経済の停滞感が広がる中、アート市場の拡大の鍵はどこにあると考えますか。

画廊のお客様はお金持ちというイメージを抱かれがちですが、最近は富裕層に限らず、一般の働く人々にまで裾野が広がってきていると感じます。

かつてはハイブランドの鞄や時計を所有すること自体が、社会的成功の象徴として機能していました。しかし現在では、それらは必ずしも特別な存在ではなくなっています。重要なのは何を持つかよりも、何を選び、どう空間に組み込むかという「編集力」であり、その意味で「同じ金額を使うなら、自宅という私的空間に意味を残すアート作品を」と考える人が増えているのではと考えています。

 

一方、アート市場をいっそう活性化させる上では税制上の課題が大きく、業界をあげて国に制度改正を訴えているところです。具体的には、作品の減価償却の対象を現在の100万円未満から500万円未満に引き上げるだけでなく、償却期間を8年から、大企業の経営トップの交代頻度と同程度、つまり3~ 5年程度に短縮することが重要だと考えています。

 

――最後に、アートとお金の関係について、改めて考えを聞かせてください。

歴史をさかのぼれば、芸術家、アーティストという存在が世の中で認識され始めた時期は、13世紀にキリスト教の教会が金利を認め、資本の自己増殖が始まった時期と重なります。経済も芸術も、神様ではなくて、人間が作り出した価値を正面から受け止めるようになったわけです。

その後、近代の幕開けとなるフランス革命とイギリスの産業革命は、政治的、経済的な個人の自立を可能にし、それに連なり、アートもまた近現代へと大きな発展を遂げました。今の芸術の枠組みの成立は、経済社会の発展と深いところで結びついているのです。

 

アート作品の取引は、ある意味で企業のM&Aに近い性質を持っています。複式簿記の上ではヒトの価値は資産計上されませんが、M&Aでは将来収益力という形で、人材や組織の持つ可能性が評価されます。

同様に、アート作品の価格も、完成された物質としての作品価値だけではなく、その作家が今後どのような評価を獲得していくのかという未来の可能性を織り込んで形成されます。作品を購入することは、過去の成果を所有することにとどまらず、その作家の未来を信じる行為でもあるのです。

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著者情報

川辺 和将
かわべ かずまさ
金融ジャーナリスト
金融ジャーナリスト、「霞が関文学」評論家。毎日新聞社に入社後、長野支局で警察、経済、政治取材を、東京本社政治部で首相官邸番を担当。金融専門誌の当局取材担当を経て2022年1月に独立し、主に金融業界の「顧客本位」定着に向けた政策動向を追いつつ官民双方の取材を続けている。株式会社ブルーベル代表。東京大院(比較文学比較文化研究室)修了。
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