経営者保証が絡む事業者とのやり取り、5月から当局へ筒抜けに?
金融庁は5月1日、「M&A・事業承継時における経営者保証情報ネットワーク」を開設しました。事業者などから相談を受けると、金融機関や信用保証機関とつなぎ、関係者間の目線合わせを促すという仕組みです。
既に3年前に開設済みの「経営者保証ホットライン」との重複感もあり、一見するとなかなか地味な取り組みながら、銀行側にとって無視できないポイントがあります。
新たな枠組みでは、相談者の相談内容をただ右から左へ横流しするのではなく、その間に立つ金融庁にも情報が共有されます(当局が用意した専用の相談シートには、取引先の金融機関だけでなく具体的な支店名の記載欄も設けられています)。たとえば、事業者が「経営者保証の解除について銀行に相談しているが、対応に誠意が感じられない」といった不満を持ってネットワークに相談を持ち掛けると、事業者と銀行のやり取りの経緯が、金融庁へと詳細に伝わる可能性があります。
金融庁はM&Aや事業承継の妨げとなる経営者保証に依存した融資慣行からの脱却に向け、業界宛ての要請文や監督指針改正によって働きかけを強めてきました。ネットワークは建前上、関係者の「認識合わせ」が主目的とされていますが、実際には要請が現場レベルに浸透しているかどうか、事業者の生の声を通じて当局が把握しやすくなることで、業界全体への牽制効果を生み出すことが最大の狙いではないか、と筆者は見ています。
「成長分野に資金供給」政策方針と逆行すれば……意味深なレポートと処分勧告
今回取り上げる残り2つの資料は、2026年3月に金融庁が公表した「地域銀行における仕組貸出モニタリングレポート」と、4月に証券取引等監視委員会が発出した、投資助言会社に対する行政処分勧告です。一見すると両者は性質の全く異なる案件ですが、「資産運用立国」という共通の文脈で通底する当局の問題意識がうかがえます。
「地域銀行における仕組貸出モニタリングレポート」によれば、地銀の8割強が仕組貸出を取り扱い、残高は約11兆円に上ります。金融庁は、仕組貸出が通常の債券とは別立てで貸出金として処理され、時価評価の対象にならないため、多くの銀行において、外見上の貸出残高を拡大させ、かつ時価評価を回避するために利用されている側面があると分析しています。
世界中の当局が監視を強めているプライベートクレジットが投資の外観をまとった融資だとすれば、金融庁の目には、融資の外観をまとった投資とも言える仕組貸出が「逆プライベートクレジット」のように映っているようです。銀行の健全性を脅かす見えざるリスクの芽を摘むことがレポートの主目的であるにせよ、「貸出残高目標を仕組貸出で形骸化させることなく、企業にきちんとリスクマネーを供給せよ」というメッセージを読み取ることができます。
4月17日には証券取引等監視委員会が、経営管理・内部管理態勢の重大な不備があるなどとして、東京都渋谷区の投資助言会社に対し行政処分を発出するよう金融庁に勧告しました。
監視委の調べではこの事業者は顧客に国内株式の売却を助言し、その資金で暗号資産を購入するよう勧めていたといいます。
岸田政権下から続く資産運用立国政策は現在、家計の投資を含むリスクマネーをいかに国内企業への成長資金に結びつけるかというフェーズに移行しています。国内株式を売却させて暗号資産の購入を勧めるビジネスモデルは政府が描く資金循環のストーリーと逆行しており、売却の助言自体が直接違法ではないにせよ、当局の虎の尾を踏む結果になった形です。
