Q:職員「支店長! 私たちが投資信託を販売する目的は何ですか?」
A: 支店長「当金融機関の収益を確保し、存続させることです。破綻したらお客さまは困ってしまいますから、ウィンウィンの関係なのですよ」
森脇's Answer:
この本質的な質問に対して、読者の皆さんならどのように答えるのかをまずは考えてみてください。
上記の回答を正しいと思った方は少なくないかもしれません。しかし、これは根本的に間違っているのです。もし、この誤りに無自覚なのであれば、次回から正しく回答できるように正解を覚えるなどという対処療法的な方策では到底足りません。必要なのは抜本的な問い直しです。すなわち、現在の自分の認識について知ること、そしてあるべき考え方について改めて思考することです。
本稿では読者の皆さんが顧客本位としてあるべき回答にたどり着くようガイドします。質問への自身の回答を頭の片隅に置きつつ、最後まで読んでみてください。
「お客さま」と「投資」について考える
各種の調査結果を一緒に確認していきましょう。まずは「家計金融資産の推移」(金融庁資料2024年6月5日「今後の金融調整の方向性 資産運用立国の実現に向けて」より)です。2003年から2023年までの20年間の家計金融資産の推移を確認すると、米国3.1倍、英国2.0倍であるのに対し、日本は1.5倍の増加に留まっています。この差は運用リターンによるものが大きく、日本人の資金が投資の市場に流れていないことを表してもいます。
次に確認するのは「金融資産の保有目的」(資産所得倍増に関する基礎資料集 令和4年10月内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局)です。これによると、金融資産の保有目的として「 老後の生活資金」をあげた人が68.5%と最も高く、この他の上位は「教育資金」や「いざというときの備え」となっています。多くの国民がお金にまつわる心配ごとがあることが分かります(これは日々お客さまと接する現場職員の実感とも合致するものでしょう)。
そうであれば、多くの人が資産形成の手段として有効なNISAを利用しているはずです。ところが、実際にはNISA口座を開設して投資をしている人は14.4%(2024年時点)しかいないのです(NISA認知状況「新NISA白書2024」2025年6月日本証券業協会)。
そして最後に確認するのは「アドバイスを受けることでの金融商品の購入意欲」(資産所得倍増に関する基礎資料集 令和4年10月内閣官房「新しい資本主義実現本部事務局」)です。アドバイスを受けたとしてもリスクのある金融商品を購入したいとは思わない、と回答した人は全体の41.3%でした。またその割合が一番小さいのは、高齢者ではなく20代の27%だったのです。逆に言えば、適切なアドバイスがあれば金融商品の購入を検討する余地のある人の方が多いと言えるのです。
筆者の当初の感覚では、7割くらいの人は投資に関するアドバイスを受けたいとは思っていないのではないか、特に若い人ほどその傾向があるかもしれない、と考えていましたが、それを見事に裏切ってくれる結果でした。実は多くの人が相談したい、ということが分かります。
以上のようなデータを眺めてみると、対面金融機関が投資信託を取り扱っていることにどのような意義が見いだせるでしょうか。
あなたは何の仕事しているのですか
ここで一つ、よく知られている例を紹介します。アメリカのNASAで清掃の仕事をしていた職員に「あなたは何の仕事をしているのですか」と尋ねたところ、「人類を月に送る仕事をしています」と答えた、というエピソードです。組織の掲げる遠大な理想が現場職員にも浸透し、実践されている好例と言えます。
読者の皆さんにも同じ質問を投げ掛けたいと思います。金融機関の役職員であるあなたは、この問いにどのように答えますか。
そして、冒頭の問いを振り返りましょう。私たちが投資信託を販売する目的は何ですか。改めて考えてみた今なら、どのように答えるでしょうか。その答えは、あなたの所属している金融機関の「経営理念」が教えてくれているはずなのです。
現場職員と経営陣が目的を共有することの重要性
筆者の実施する研修の多くは顧客本位の浸透や実践に関わるものです。金融機関によって顧客本位の浸透度合いが違いますから、研修前に受講者へのアンケートを実施しています。そこで必ず入れる問いの一つが、今回のテーマと同じ質問なのです。
「貴金融機関で金融商品を取り扱う目的は何ですか。①あなたはどう思いますか? ②自分が所属している部室店の長はどのように思っていますか? ③経営者、社長や理事長はどのように思っていますか? ②と③はあなたから見て、どう思っているように見えるかを書いてください。」というものです。
①の回答は「お客さまの老後の資産形成のため」や「目標達成のため」などばらつきがありますが、②と③については多くの受講者が「自金融機関の利益のため」という趣旨のことを回答します。
これは、支店長をはじめ経営陣の発する顧客本位の方針が現場職員に伝わっていないことを表しています。それどころか、上司・経営者が本気で顧客本位を考えているわけではないと見透かされているのです。このような状態では、具体的な実践の方法を教えても、その効果が低いばかりでなく、顧客本位は建前に過ぎないのだと考えている現場職員を苦しめ、迷わせることになります。
目的地の共有が不十分なまま船出をすれば、その航行がおぼつかないものになることは明らかです。キャプテンが口にする目的地と、実際に見ている方角が異なれば、部下は混乱します。目指す先が分からなければ漕ぐ意欲も湧きませんし、乗組員相互に助け合うこともままなりません。ともすれば遭難してしまいます。
職員全員が迷わずに目的に向かって最善を尽くせるよう、支店長には指針となる北極星を常に指し示しながら部下を導くリーダーシップを期待したいのです。ここまでくれば「目的」が何であるかを語れるはずです。

