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永田町・霞が関ウォッチャーのひとり言

「働けば報われる」のその先へ―― 給付付き税額控除と寄附制度が開く「資本循環国家」への道

文月つむぎ
文月つむぎ
2026.02.18
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「働けば報われる」のその先へ―― 給付付き税額控除と寄附制度が開く「資本循環国家」への道

日本の家計金融資産は、2,200兆円を超えた。その規模は米国に次ぐ世界有数の水準にあるが、その半分以上は依然として預貯金として滞留し、経済の新陳代謝を促す形では十分に機能していない。一方で、教育、研究、地域再生、スタートアップといった将来の成長を支える分野では、慢性的な資金不足が続く。

「資本は存在するが、循環していない」――この目詰まりこそが、日本経済の長期停滞の深層にある本質的な問題である。

 

今回の衆議院選挙を経て導入議論が現実味を帯びる「給付付き税額控除」は、単なる低所得者支援策ではない。その本質は、「働くほど報われる」という資本主義の最も基本的な原理を制度として再構築する点にある。そしてさらに重要なのは、その先にある資本の出口、すなわち寄附制度を含めた資本循環の全体設計である。

 

真に問われているのは再分配の強化ではなく、日本に眠る資本を再び社会の隅々まで循環させる制度を構築できるかどうかだ。

 

労働参加の入口を整える

給付付き税額控除の理論的源流は、ミルトン・フリードマンが提唱した「負の所得税」にある。一定所得以下の個人から税を徴収するのではなく、逆に給付を行うことで、就労によって所得が増えるほど手取りが確実に増加する構造を作るものである。

現行制度では、「年収の壁」に象徴されるように、所得の増加が必ずしも手取りの増加につながらない場合がある。社会保険料負担や給付停止が同時に発生することで、追加的な労働が経済的合理性を失う「働き損」の状態が生じるためである。給付付き税額控除は、所得の増加に応じて給付が緩やかに減少する設計とすることで、限界的な労働が常に手取りの増加につながる環境を整備する。

これは単なる福祉の拡充ではなく、労働市場への参加を促進し、経済活動の基盤を広げるための制度的インフラである。さらに、所得の安定性が高まることは、家計のリスク許容度を向上させる。生活の底が制度的に保障されることで、個人は将来への不安を過度に恐れることなく、自己研鑽やリスキリングといった人的資本への投資、あるいは少額からの資産形成へと踏み出すことが可能になる。

 

公平性を担保するには

もっとも、この制度の持続可能性は、適切な資産把握と公平な制度設計に依存する。海外の先行事例は、その難しさを示している。米国の勤労所得税額控除(EITC)は就労率の向上に寄与したが、架空の扶養家族申告などによる過誤支給率は20%を超える水準に達したとされる。また英国のユニバーサル・クレジットは、所得把握の遅延により支給の安定性に課題を残した。

また、日本において、フロー所得のみを基準とすれば、巨額の金融資産を保有しながら低所得状態にある者への給付という制度的不整合が生じ得る。この問題に対応するためには、マイナンバーを基盤とした金融資産の包括的把握を進めることが不可欠であり、重要となるのが、デジタル庁を中心としたリアルタイムの所得・資産把握インフラの構築だろう。

 

一定規模以上の資産保有者に対する給付調整など、資金力を考慮した精密な制度設計を行うことは、単なる不正防止策ではない。それは制度に対する社会的な信頼を維持し、現役世代の合意を確保するための絶対的な前提条件である。デジタル技術によって真に支援が必要な層を正確に特定できて初めて、この制度は強固な社会基盤となり得る。

 

資本の「出口」を整える

労働参加の入口を整えるだけでは、資本は十分に循環しない。加えて、蓄積された資本が社会に還流する出口を制度として整備すること、すなわち寄附制度の充実も必要だ。

日本の個人寄附額は対GDP比で米国の約10分の1にとどまるが、この差は制度設計の違いに起因する部分が大きい。寄附を善意に委ねるだけではなく、資産運用の自然な延長線上にある合理的な選択として成立させる枠組みが必要である。

 

その第一歩は、寄附税制の段階的な拡充である。控除率の引き上げや、長期保有資産からの寄附に対する優遇措置を整えるべきである。さらに、株式などの金融資産を現物のまま寄附する際の課税繰延措置や、寄附目的の資産形成を支援する専用口座(寄附NISA等)の創設も検討に値する。これにより、投資によって形成された資本が、売却課税によって遮断されることなく、社会課題の解決へと直接移転する経路が開かれる。

ただし、資金を出す側のインセンティブだけでは不十分である。受け手となるNPOや公益法人の側にも、厳格な情報公開と成果の可視化が求められる。自らの資本がどのような社会的価値を生んだかを寄附者が実感できる透明性があって初めて、資本の出口は大きく開かれる。相続段階においても、公益目的での資産移転を促進する制度を整備することは、世代を超えた資本循環の観点から極めて重要である。

 

「資本循環国家」への転換を

給付付き税額控除は、資本主義の入口を支え、国民の挑戦を後押しする制度である。寄附制度は、その成果としての資本を社会へと開く出口の制度である。

入口と出口が整備されたとき、資本は初めて命を持って循環し始める。循環しない資本は単なる蓄積にとどまるが、循環する資本は、社会に新たな価値と幸福感(ウェルビーイング)を生むのである。

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川辺 和将

著者情報

文月つむぎ
ふづきつむぎ
民官双方の立場より、長らく資産運用業界をウォッチ。現在、これまでの人脈・経験を生かし、個人の安定的な資産形成に向けた政府・当局や金融機関の取組みについて幅広く情報を収集・分析、コラム執筆などを通し、意見を具申。
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