2025年度より、高等学校等に在学・通学させる生徒又は学生を持つ保護者に対する「生徒又は学生1人あたり年11万8,800円の支給」について、私立学校や世帯の所得にまつわる制限が撤廃された。さらに、25年10月29日の自民・維新・公明3党の「高等学校授業料無償化に関する実務者協議」で、26年度からの無償化開始が合意にいたった。
それに伴い、26年度からは、「私立学校に通わせている場合は世帯年収590万円まで」の所得制限を撤廃すると共に、支給上限額を私立学校の授業料平均である年45万7000円まで支給額も引き上げられることとなった。
厚生労働省が25年7月4日に公表した国民生活基礎調査によれば、満18歳未満の児童のいる世帯総数は703万世帯、そのうち年収600万円を超えるのは442万世帯で、全体の62.9%を占める。25年12月26日に一般財団法人日本私学教育研究所が公表した25年度の全日制・定時制課程の高等学校生徒数に占める私立学校生は34.7%の模様だ。
442万世帯の三分の一とすれば147.3万世帯となり、一時金を支給する一過性の政策ではないだけに、相応の影響を与える可能性がある。
金融実務者目線でまずもって連想されるのは、教育資金に与える変動動向と見込む。利用者目線で見れば、利用の優先順位は、①奨学金、②公的融資、③民間教育ローン、となろう。
これらのうち、①奨学金、②公的融資の利用状況をそれぞれ遡ってみたが、いずれも減少傾向にある。これまで段階的に実施されてきた高校無償化策が、これらに与えた効果も小さくなかったことだろう。
民間金融機関は教育ローン残高について情報公開していないが、これらの動向と異なる動きがみられるとは考え難い。残高の寄与度を鑑みれば、現在の民間金融機関における教育ローンは、住宅ローン利用者への金利優遇を通じた囲い込みなどを目的とした位置づけだろう。今後はその利用ニーズがさらに弱まることが見込まれ、結果として住宅ローンの借換競争が激化する事態も見込まれる。
ごく平均的な日本人の価値観では、無償化によって浮いた家計は保護者側で費消せず、そのまま子供のために充当することが自然だろう。具体的な充当先で真っ先に連想されるのは、教育費となろう。
25年3月時点の高校卒業後の進路は、多い順に、①大学(学部)の58.3%、②専門学校の14.4%、③就業の13.8%、となっている。大学(学部)と短期大学を合わせれば6割超、大学(学部)・短期大学・専門学校・専修学校を合わせれば8割弱に達する。
大学への進学は近年も上昇し続けており、高校無償化がそれをさらに後押しすることが想像に難くない。進学率は近い将来、6割を超えることになろう。大学などの高等教育機関だけでなく、塾・予備校など教育セクターにとっても、進学やダブルスクール需要などが喚起され、高校無償化が“神風”になると見込まれる。
高等教育機関への進学率上昇がもたらす影響は、教育産業のみならず多方面に広がるだろうが、必ずしも全セクターにとってプラス面ばかりではない。マイナス面が連想される要素に、高校卒業者を中心に雇用するセクターの採用難化が挙げられる。
先に挙げた「年別高等学校卒業後の進路推移」でも、2014年比で最も比率を引き下げているのは就業者だ。しかも、高校入学者の母数も減少傾向にある。
労働政策研究・研修機構の2022年の調査では、高校卒と大学卒の生涯賃金には後者が前者を上回る差異が認められ、その差額は男性約5500万円、女性約6000万円に上る。賃金を支払う事業者等にとっては、高校卒を雇用することで労務費を抑制できるという事実がある。
高校・大学卒業別の就業者の実数については、大まかな括りのデータがある。分類別に高校卒業者が大学卒業者の倍以上に達する職業を抽出し、差異(人数)と倍数が最も大きい職業に赤色、時点に黄色を着色した。
人数に最も大きな差異がみられたのは生産工程で、工場など製造業の作業現場での就業者などが該当する。それに続くのは運搬・清掃・包装等で、郵便・荷役・倉庫・清掃現場の就業者などが該当する。高校卒業者を大学卒業者で割った倍数では、値が最も大きかったのが農林漁業、次いで輸送・機械運転となった。
次に、求人状況に目を向けよう。直近の25年9月時点で、公共職業安定所(ハローワーク)に求人を申し込んだ事業者のうち人数の多かった5産業を機械的に抽出したところ、最も多くの比率を占めたのは建設業であり、次点の卸売業、小売業の1.5倍以上に達した。昨年同月比でも求人を2934人増やしており、人手不足がさらに悪化している事態が疑われる(輸送用機械器具製造業を平たく言えば、自動車部品製造業になろう)。
最後に、欠員率に注目したい。直近の25年6月時点で、数値の高い5産業を抽出し、前年同月時点との比較を行ったところ、(マイナスは充足を意味するため)最も悪化したのは不動産業、物品賃貸業となった。
これら3つの表に共通する業種・職種は「運輸(輸送)」と「建設」だ。
近年の就業者数動向を見ても、作業現場の人手不足がさらに悪化している事態が窺われる。線形近似曲線の傾斜からは、相対的に建設業の作業現場での就業者減が顕著な動向が見て取れる。
よって、この2つのセクターにおいて、特に現場の人員確保に影響が広がることが想像に難くない。さらに、技能労働者の人件費の上昇が建設コストに反映されることで業種の枠を越え、設備投資や不動産セクターなどに幅広い分野に負担が広がる事態が懸念される。

