11月8日から奄美地方や沖縄本島で非常に激しい雨が降り続くなど、11月に入ってからも、4つの台風が同時発生している。これらに代表されるように、温暖化に伴う気象変動は既に現実化している。
気象庁では、大雨を1時間当りの冠水量で測定している。各々の雨量に対する評価は図表1のとおりだが、 “ゲリラ豪雨”は俗称であり、同庁の使用名称は“局地的大雨”や“集中豪雨”にとどまる。1時間当り100mm相当の雨量については、特段の評価がなされていないということだが、敢えて言えば言葉にできないほどの水準となろう。
そうした冠水量実績に沿った年別推移でも、大雨の発生件数に増加傾向が認められる。より強度の高い(=降水量の多い)雨ほど、増加率が大きくなっていることが特徴的だ。途上国の旺盛な電力需要などを背景に、国を跨いだ世界的な温暖化対策が講じられていない現状ゆえ、今後も気温は上昇が見込まれ、それゆえに雨量は減少せず集中豪雨も増えるだろう。
本稿では、こうした予測の下、いわゆる風水害水準の局地的大雨について、俗称のゲリラ豪雨を使用する。
ゲリラ豪雨がもたらした被害について、業種別などに分類された公的なデータは現在のところない模様だ。有識者意見などからは「ゲリラ豪雨が直接甚大な被害をもたらし、気候回復後にも即座に従前の活動に戻れない」代表的なセクターに、農業・漁業・建設・飲食・観光がうかがえた。
① 農業
1970年から2020年までの50年間に、農家数は540万2,000から174万7,000まで、農家の世帯員は2,659万人から348万9,000人まで減少している。昨今の(「手数料ありき」で動くような見苦しいところも多い)事業引継支援をうたう機関・事業者などが現れるはるか以前から現在に至るまで、後継者難が続き、就業者も高齢化している。
よってゲリラ豪雨による農作物の冠水、温室・畜舎など設備の損壊等が、廃業に直結する。ゲリラ豪雨は特定地域にもたらされるため、同様の被害に遭った近隣の農業者に廃業の動きが波及することもあるだろう。
農業者が減れば、農業周辺事業者が自ずと細る。誤解を怖れずに言えば、割高な価格を嫌い、農業協同組合から斡旋される農業資材などを選択しない農業者は少なくない。こうしたニーズに応じる形で、相対的に安価な価格で農家に資材などを売掛で販売し、資金化後の代金受領(すなわち売掛金回収)に応じている「地元の中小資材業者」が各地にみられる。農作物発送用段ボール箱の取扱業者などが代表的だ。
ゲリラ豪雨がもたらす廃業による顧客減、耕地復興までの売掛回収期間の長期化などは、まずもってこうした中小資材セクターに直接的な負の影響をもたらすだろう。
② 漁業
船舶自体は耐水性が高い構造だが、ゲリラ豪雨の威力は、ときに港湾施設も損壊させる。また、山間部などで発生したゲリラ豪雨により、倒木などの瓦礫が河川を通じて港湾部に流れ着くことも多い。これらの結果、天候の回復後も漁に出られない事象となることは珍しくない。
漁船が動かせなくなれば、漁業周辺事業者がおのずと細る。中でも大きな負の影響が避けられないセクターに、燃料関係を見込む。漁船を含む船舶は、バンカー船と呼ばれる給油船でホースを介して給油するほか、桟橋などに設置された供給施設(俗に“給油桟橋”などと呼ばれる)脇に停泊させて直接給油する形態もみられる。給油桟橋は言わば船用のガソリンスタンドで、実際に、車用のガソリンスタンド業者の併営も多い。
漁業の原価に占める燃料費の比率はおおよそ2割弱と言われ、漁獲量の多寡を問わず必要なため、燃料相場に気をもまない漁師はいない。実務上も、漁船を含む各船舶は寄港の都度燃料を満載するとは限らず、価格の高い港湾では最低限の補充にとどめるほか、燃料補給目的の寄港を行うこともある。
燃料事業はスケールメリットが直接的に作用しやすいため、中小事業者の販売価格は相対的に割高になりやすい。給油関係事業者は近年もなお減少傾向にあり、中小・零細の倒産や廃業に伴って販売事業者当りの給油所数が増える資本の寡占化がみられる[図表4]。
こうした環境の下で、ゲリラ豪雨によって給油施設損壊などの被害に遭った中小燃料事業者が、「ここが潮時」と廃業を選択する事象が見込まれる。
陸上でも、ゲリラ豪雨によって道路が寸断されて交通量自体が減少すれば、燃料関係事業者に直接的なマイナスをもたらす。さらに、大規模な冠水や土砂崩れによる地形変動によって交通路の変更を余儀なくされる事象なども、もれなくマイナスをもたらそう。
建設・飲食・観光に纏わる直接の事業者への影響は、容易に察することができるため、本稿では主題である二次的な波及について考察する。
③建設業
土砂崩れや道路の寸断などにより、予定していた建築ができなくなれば工事は停止を余儀なくされ、土木工事などによる復旧を待つ形となる。「平常時の建設従事人数>復旧用の土木作業人数」の図式とすれば、地域で工事を担う人員数は減る。
その結果負の影響を受けるのは、飲食のほか、パチンコなどの娯楽業セクターだ。地方部などに立地するパチンコ店がゲリラ豪雨で損壊した際に、近隣の工事現場などの損壊を目の当たりにすれば、給油桟橋やガソリンスタンド同様に、心情が廃業に傾こう。
④ 飲食業
飲食業が事業休止や廃業を選択すれば、飲食周辺事業者が自ずと細る。代表的なセクターに、食料品卸(食品問屋)と業務用内装工事を挙げる。
鮮度が漏れなく求められる食品、なかんずく生鮮品は、飲食店までの物理的な配送距離を短くせざるを得ないため、中小の食料品卸が全国に点在している。そもそも卸売業界の利幅は薄く、その中でも特に食品卸売業はさらに薄いと言われ、日常的に薄利多売を余儀なくされる事業者が珍しくない。こうした業界環境の下で、事業者数にも減少傾向が認められる[図表5]。
従って、ゲリラ豪雨によって地域の顧客が一斉に休業などに至れば、それだけで資金繰りに行き詰まる事業者が出てきても不思議ではない。
いわゆる“一人親方”形態も多い業務用内装工事も、飲食店の営業が滞ると、売上減に直結する。食用油などを含む調理に加え、不特定多数の来店者が連続する飲食店は、業務用設備のうち最も故障頻度が高いセクターという一面が認められる。有り体に言えば、精密機械の生産設備のような衛生管理ガイドラインが設定されていることは例外的であり、それゆえに中小事業者が参入しやすい。
裏返せば、飲食店の内装工事経験があっても、他の業態にすぐに切り替えられる・受け入れられるか否かは別問題だ。そうしている間に、資金繰りに行き詰まる事業者が出てきても不思議ではない。
⑤ 観光業
今回は、ホテル・飲食店・(観光)体験施設・レンタカーではなく、土産物セクターに注目してみた。
アフターコロナの経済回復局面と円安効果によりインバウンド消費の回復は著しく、京都府などで観光公害をみられるようになった。訪日外国人観光客については、日本での消費額が新型コロナの感染拡大前を上回った。
そうした一方で、①過去に訪日経験のある外国人観光客の来日は都市部に向かう傾向が認められる(=地方部には行かなくなる)、②日本滞在中の滞在施設には調理器具が備わっていないことが一般的である、③諸外国における日本の植物防疫法・家畜伝染予防法に当たる法制等により特に果物類は病害虫や病気予防のため輸入禁止の国が多い、ことから生鮮品を本国に手土産として持ち帰ることはできない(=一部の加工品を認めている国がある程度)、側面がある。この結果、生鮮品に近い土産物は国内需要を中心に支えられている。
季節要因があるため同時期で比較したが、そうした生鮮品に近い土産物の市場は、コロナ前と横ばいで推移しているもようだ。率直に言えば、伸びていない[図表6]。
相対的に小さな資本の事業者も多いため、土産物需要向けが売上の相当数を占める事業者などが、ゲリラ豪雨によって生産設備などの損壊被害に遭った中、さらに被災地および周辺の観光自粛ムードと相まって事業が行き詰まる事象などが想定される
文字数の関係で割愛させていただいたが、私見ではさらに公的セクターへの波及が挙げられるため、稿を改めたい。