finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート
いまだ見えざるリスクの芽 与信管理の“バタフライ・エフェクト”を予測する

第12回 記録的豪雨のマイナス効果はどこまで広がるか

佐々木 城夛
佐々木 城夛
オペレーショナルデザイン株式会社 取締役デザイナー
2024.12.03
会員限定
第12回 記録的豪雨のマイナス効果はどこまで広がるか

11月8日から奄美地方や沖縄本島で非常に激しい雨が降り続くなど、11月に入ってからも、4つの台風が同時発生している。これらに代表されるように、温暖化に伴う気象変動は既に現実化している。

 

気象庁では、大雨を1時間当りの冠水量で測定している。各々の雨量に対する評価は図表1のとおりだが、 “ゲリラ豪雨”は俗称であり、同庁の使用名称は“局地的大雨”や“集中豪雨”にとどまる。1時間当り100mm相当の雨量については、特段の評価がなされていないということだが、敢えて言えば言葉にできないほどの水準となろう。

 
 

 

そうした冠水量実績に沿った年別推移でも、大雨の発生件数に増加傾向が認められる。より強度の高い(=降水量の多い)雨ほど、増加率が大きくなっていることが特徴的だ。途上国の旺盛な電力需要などを背景に、国を跨いだ世界的な温暖化対策が講じられていない現状ゆえ、今後も気温は上昇が見込まれ、それゆえに雨量は減少せず集中豪雨も増えるだろう。

本稿では、こうした予測の下、いわゆる風水害水準の局地的大雨について、俗称のゲリラ豪雨を使用する。

ゲリラ豪雨がもたらした被害について、業種別などに分類された公的なデータは現在のところない模様だ。有識者意見などからは「ゲリラ豪雨が直接甚大な被害をもたらし、気候回復後にも即座に従前の活動に戻れない」代表的なセクターに、農業・漁業・建設・飲食・観光がうかがえた。

① 農業

1970年から2020年までの50年間に、農家数は540万2,000から174万7,000まで、農家の世帯員は2,659万人から348万9,000人まで減少している。昨今の(「手数料ありき」で動くような見苦しいところも多い)事業引継支援をうたう機関・事業者などが現れるはるか以前から現在に至るまで、後継者難が続き、就業者も高齢化している。

よってゲリラ豪雨による農作物の冠水、温室・畜舎など設備の損壊等が、廃業に直結する。ゲリラ豪雨は特定地域にもたらされるため、同様の被害に遭った近隣の農業者に廃業の動きが波及することもあるだろう。

農業者が減れば、農業周辺事業者が自ずと細る。誤解を怖れずに言えば、割高な価格を嫌い、農業協同組合から斡旋される農業資材などを選択しない農業者は少なくない。こうしたニーズに応じる形で、相対的に安価な価格で農家に資材などを売掛で販売し、資金化後の代金受領(すなわち売掛金回収)に応じている「地元の中小資材業者」が各地にみられる。農作物発送用段ボール箱の取扱業者などが代表的だ。

ゲリラ豪雨がもたらす廃業による顧客減、耕地復興までの売掛回収期間の長期化などは、まずもってこうした中小資材セクターに直接的な負の影響をもたらすだろう。

② 漁業

船舶自体は耐水性が高い構造だが、ゲリラ豪雨の威力は、ときに港湾施設も損壊させる。また、山間部などで発生したゲリラ豪雨により、倒木などの瓦礫が河川を通じて港湾部に流れ着くことも多い。これらの結果、天候の回復後も漁に出られない事象となることは珍しくない。

漁船が動かせなくなれば、漁業周辺事業者がおのずと細る。中でも大きな負の影響が避けられないセクターに、燃料関係を見込む。漁船を含む船舶は、バンカー船と呼ばれる給油船でホースを介して給油するほか、桟橋などに設置された供給施設(俗に“給油桟橋”などと呼ばれる)脇に停泊させて直接給油する形態もみられる。給油桟橋は言わば船用のガソリンスタンドで、実際に、車用のガソリンスタンド業者の併営も多い。

漁業の原価に占める燃料費の比率はおおよそ2割弱と言われ、漁獲量の多寡を問わず必要なため、燃料相場に気をもまない漁師はいない。実務上も、漁船を含む各船舶は寄港の都度燃料を満載するとは限らず、価格の高い港湾では最低限の補充にとどめるほか、燃料補給目的の寄港を行うこともある。

燃料事業はスケールメリットが直接的に作用しやすいため、中小事業者の販売価格は相対的に割高になりやすい。給油関係事業者は近年もなお減少傾向にあり、中小・零細の倒産や廃業に伴って販売事業者当りの給油所数が増える資本の寡占化がみられる[図表4]。

 


 

こうした環境の下で、ゲリラ豪雨によって給油施設損壊などの被害に遭った中小燃料事業者が、「ここが潮時」と廃業を選択する事象が見込まれる。

陸上でも、ゲリラ豪雨によって道路が寸断されて交通量自体が減少すれば、燃料関係事業者に直接的なマイナスをもたらす。さらに、大規模な冠水や土砂崩れによる地形変動によって交通路の変更を余儀なくされる事象なども、もれなくマイナスをもたらそう。

 

建設・飲食・観光に纏わる直接の事業者への影響は、容易に察することができるため、本稿では主題である二次的な波及について考察する。

③建設業

土砂崩れや道路の寸断などにより、予定していた建築ができなくなれば工事は停止を余儀なくされ、土木工事などによる復旧を待つ形となる。「平常時の建設従事人数>復旧用の土木作業人数」の図式とすれば、地域で工事を担う人員数は減る。

その結果負の影響を受けるのは、飲食のほか、パチンコなどの娯楽業セクターだ。地方部などに立地するパチンコ店がゲリラ豪雨で損壊した際に、近隣の工事現場などの損壊を目の当たりにすれば、給油桟橋やガソリンスタンド同様に、心情が廃業に傾こう。

④ 飲食業

飲食業が事業休止や廃業を選択すれば、飲食周辺事業者が自ずと細る。代表的なセクターに、食料品卸(食品問屋)と業務用内装工事を挙げる。

 


鮮度が漏れなく求められる食品、なかんずく生鮮品は、飲食店までの物理的な配送距離を短くせざるを得ないため、中小の食料品卸が全国に点在している。そもそも卸売業界の利幅は薄く、その中でも特に食品卸売業はさらに薄いと言われ、日常的に薄利多売を余儀なくされる事業者が珍しくない。こうした業界環境の下で、事業者数にも減少傾向が認められる[図表5]。

従って、ゲリラ豪雨によって地域の顧客が一斉に休業などに至れば、それだけで資金繰りに行き詰まる事業者が出てきても不思議ではない。

いわゆる“一人親方”形態も多い業務用内装工事も、飲食店の営業が滞ると、売上減に直結する。食用油などを含む調理に加え、不特定多数の来店者が連続する飲食店は、業務用設備のうち最も故障頻度が高いセクターという一面が認められる。有り体に言えば、精密機械の生産設備のような衛生管理ガイドラインが設定されていることは例外的であり、それゆえに中小事業者が参入しやすい。

裏返せば、飲食店の内装工事経験があっても、他の業態にすぐに切り替えられる・受け入れられるか否かは別問題だ。そうしている間に、資金繰りに行き詰まる事業者が出てきても不思議ではない。

⑤ 観光業

今回は、ホテル・飲食店・(観光)体験施設・レンタカーではなく、土産物セクターに注目してみた。

アフターコロナの経済回復局面と円安効果によりインバウンド消費の回復は著しく、京都府などで観光公害をみられるようになった。訪日外国人観光客については、日本での消費額が新型コロナの感染拡大前を上回った。

そうした一方で、①過去に訪日経験のある外国人観光客の来日は都市部に向かう傾向が認められる(=地方部には行かなくなる)、②日本滞在中の滞在施設には調理器具が備わっていないことが一般的である、③諸外国における日本の植物防疫法・家畜伝染予防法に当たる法制等により特に果物類は病害虫や病気予防のため輸入禁止の国が多い、ことから生鮮品を本国に手土産として持ち帰ることはできない(=一部の加工品を認めている国がある程度)、側面がある。この結果、生鮮品に近い土産物は国内需要を中心に支えられている。

季節要因があるため同時期で比較したが、そうした生鮮品に近い土産物の市場は、コロナ前と横ばいで推移しているもようだ。率直に言えば、伸びていない[図表6]。

 

 

相対的に小さな資本の事業者も多いため、土産物需要向けが売上の相当数を占める事業者などが、ゲリラ豪雨によって生産設備などの損壊被害に遭った中、さらに被災地および周辺の観光自粛ムードと相まって事業が行き詰まる事象などが想定される

文字数の関係で割愛させていただいたが、私見ではさらに公的セクターへの波及が挙げられるため、稿を改めたい。

11月8日から奄美地方や沖縄本島で非常に激しい雨が降り続くなど、11月に入ってからも、4つの台風が同時発生している。これらに代表されるように、温暖化に伴う気象変動は既に現実化している。

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
1
前の記事
第11回 アルコール離れはどのセクターにどんな影響を与えるか
2024.10.04
次の記事
第13回 木材利用を促す建築基準法改正は、どのセクターにどんな効果を与えるか
2025.03.27

この連載の記事一覧

いまだ見えざるリスクの芽 与信管理の“バタフライ・エフェクト”を予測する

佐々木城夛の「バタフライ・エフェクト」
第18回:40年ぶりの運賃区分統合実施!JR東日本の運賃改定が各セクターに及ぼす影響は?

2026.03.13

第17回:「高校無償化」で加速する家計教育資金の大移動!影響を受ける意外な業種とは?

2026.01.27

佐々木城夛の「バタフライ・エフェクト」
第16回 米価高騰の実態は? 飲食・製造・不動産…多セクターに広がる負担

2025.09.18

佐々木城夛の「バタフライ・エフェクト」
第15回 住宅ローン金利の上昇はどのセクターにどんな効果を及ぼすか

2025.07.30

佐々木城夛の「バタフライ・エフェクト」
第14回 異動退職者の増加はどのセクターにどんな効果を与えるか

2025.05.28

第13回 木材利用を促す建築基準法改正は、どのセクターにどんな効果を与えるか

2025.03.27

第12回 記録的豪雨のマイナス効果はどこまで広がるか

2024.12.03

第11回 アルコール離れはどのセクターにどんな影響を与えるか

2024.10.04

第10回 実質賃金マイナス26カ月連続 個人消費の不振がきついセクターは?

2024.07.18

新紙幣の特需で潤う自治体・セクターはどこか
「渋沢栄一」テーマ型投信も?

2024.06.28

おすすめの記事

【みさき透】ファイナンシャル・ウェルビーイング企業の支援で運用立国の高度化を、今夏の「新金融戦略」に向け議連で検討も

みさき透

【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉚
米国株からグローバル株へ資金シフトと欧州株ファンドへの期待

藤原 延介

【プロが解説】「アンソロピック・ショック」とは?AIがSaaSを使う側に回り、揺らぐ課金モデル

末山 仁

「テクノロジー×教育×アクセス向上」でプライベートアセットの民主化を――iCapitalが描くオルタナ市場拡大への道筋

finasee Pro 編集部

事業会社から最も評価が高い運用会社はどこか?Extel社の調査結果に見る日本市場の「360度評価」

finasee Pro 編集部

著者情報

佐々木 城夛
ささき じょうた
オペレーショナルデザイン株式会社 取締役デザイナー
1967年東京生まれ。1990年慶應義塾大学法学部法律学科卒、信金中央金庫入庫。欧州系証券会社(在英国)Associate Director、信用金庫部上席審議役兼コンサルティング室 長、静岡支店長、地域・中小企業研究所主席研究員等を経て2021年4月に独立。2023年6 月より現職。沼津信用金庫非常勤参与。 「ダイヤモンド・オンライン(ダイヤモンド社)」・「金融財政ビジネス(時事通信社)」ほか連載多数。著書に「いちばんやさしい金融リスク管理(近代セールス社)」ほか。HP アドレスは https://jota-sasaki.jimdosite.com/
続きを読む
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
【みさき透】ファイナンシャル・ウェルビーイング企業の支援で運用立国の高度化を、今夏の「新金融戦略」に向け議連で検討も
【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉚
米国株からグローバル株へ資金シフトと欧州株ファンドへの期待
事業会社から最も評価が高い運用会社はどこか?Extel社の調査結果に見る日本市場の「360度評価」
【プロが解説】「アンソロピック・ショック」とは?AIがSaaSを使う側に回り、揺らぐ課金モデル
広島銀行の売れ筋トップを独走する「ポラリス」と第2位を継続する「世界経済インデックスファンド」の魅力
「支店長! お客さまから商品選びを丸投げされてしまいます!」
アセット・スワップと減損処理
「支店長! お客さまへ良い提案をするためのコンサルティング能力はどうやって向上させればいいですか。何に関心を持つべきでしょう」
長期金利の急上昇が話題になった日本国債発行体である財務省国債企画課は市場をどう見ているのか【前編】
新NISA戦略を運用会社に聞く① 日興アセット、新しい投資家の開拓のためには対面窓口での対応がカギに
事業会社から最も評価が高い運用会社はどこか?Extel社の調査結果に見る日本市場の「360度評価」
長期金利の急上昇が話題になった日本国債発行体である財務省国債企画課は市場をどう見ているのか【前編】
足利銀行の売れ筋で大幅ランクアップをはたした「グローバルバリュー株式ファンド」の行方は?
千葉銀行の売れ筋で「分散名人」がトップに、「日本株好配当」や「グローバルREIT」も人気化
広島銀行の売れ筋トップを独走する「ポラリス」と第2位を継続する「世界経済インデックスファンド」の魅力
日本国債市場で存在感増す海外投資家 発行体である財務省国債企画課は市場をどう見ているのか【後編】
【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉚
米国株からグローバル株へ資金シフトと欧州株ファンドへの期待
SBI証券で売れ筋上位は変わらず、イラン紛争の長期化懸念でアクティブファンドにも出番
「支店長! お客さまから商品選びを丸投げされてしまいます!」
【プロが解説】「アンソロピック・ショック」とは?AIがSaaSを使う側に回り、揺らぐ課金モデル
佐々木城夛の「バタフライ・エフェクト」
第18回:40年ぶりの運賃区分統合実施!JR東日本の運賃改定が各セクターに及ぼす影響は?
「支店長! お客さまから商品選びを丸投げされてしまいます!」
【金融風土記】九州一の大都会はどんな様子なの?‟フルスペック”福岡県の金融動向
広島銀行の売れ筋トップを独走する「ポラリス」と第2位を継続する「世界経済インデックスファンド」の魅力
野村證券の人気ファンドは高リターンにシフト、「のむラップ・ファンド」がトップ10から消える
プライベートクレジットと解約設計の整合性を問う
「銀証連携」の強化と「支社体制」の導入でコンサルティング営業の高度化を加速 case of 東京きらぼしフィナンシャルグループ
事業会社から最も評価が高い運用会社はどこか?Extel社の調査結果に見る日本市場の「360度評価」
投信ビジネスに携わる金融のプロに聞く!「自分が買いたい」ファンド【アクティブファンド編】
総合証券モデルの利点は残し、それ以上の価値を生む「合弁会社設立」から見えてくるグループの覚悟 case of 三井住友フィナンシャルグループ/ SMBC日興証券
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2026 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら