霞が関では7月の定例人事が済み、金融庁の主な報告書も公表された。投信販売など資産運用ビジネスでは「資産運用サービスの高度化に向けたプログレスレポート」と「リスク性金融商品の販売・組成会社による顧客本位の業務運営に関するモニタリング結果」(FDレポート)がよく知られるが、投信販売の第一線に携わったり販売体制の企画や管理を担ったりする者にとって、まず注目すべきはFDレポートだろう。投信やファンドラップなど金融商品のタイプごとに販売状況の分析や当局が認識した課題などが記されているからだ。
そのFDレポートを一読したところ、当局の問題意識が非常にクリアに示されているように感じた。2024年の同レポートでは「マイナリーグ」扱いだった問題がメジャーに昇格したのも目を引いた。
課題が明確化されたことで販売会社などからすれば、当局が突いてくるテーマが見やすくなったのではないだろうか。
モニタリング結果を列挙、筆頭は外株
当局の関心は地銀系証券に
25年のFDレポートの特徴は前年に比べて読みやすくなったことだ。外国株式やファンドラップ、外貨建て保険など7つのタイプの金融商品を取り上げ、販売状況のモニタリング結果を列挙。それぞれで当局が認識した課題を明確に示している。24年の同レポートと目次を見比べるだけでも、分かりやすさが伝わるだろう。

ここで挙げられた7タイプの金融商品のうち、筆頭にあるのが外国株式だ。さらに、巻末のコラムにも外株販売に対する当局の懸念が表れている。特にコラムでは外株の回転売買を問題視し、回転の頻度と顧客利益が逆相関の関係にあるとデータを用いて検証している。
外株取引の中でも、市場を通さずに証券会社が自らの持ち高を活用する店頭取引の場合、価格の透明性が低く顧客が不利な取引を強いられるケースがある。
同レポートをまとめたメンバーの1人は、店頭取引による外株の回転売買では「1往復で5%超の『サヤ抜き』も見られる」としたうえで、特に銀行から送客を受けた地銀系証券が事情を知らない顧客に頻繁に利食い売りを勧めていることに憤慨。個人的見解と断ったうえで「2、3の事例はアウトだと思う」と明かした。
仕組み債の不適切な販売で地銀とその系列証券が処分されたのは23年6月。外株で二の舞が演じられないことを願うばかりだ。
Fラップと外債、25年は本記に昇格
庁内で問題意識の共有が進む
24年10月15日の本欄(役所の資料はこう読め!ファンドラップに「黄色信号」)で指摘したファンドラップに関する記述が、24年版では注記(項番50)にとどまっていたものの、25年版では本記に格上げされ、7タイプの商品の中で外株に次ぐ2番目で登場している。
24年版では、その前年に仕組み債問題で金融業界を厳しく非難したため「あまり叩きすぎても」という融和派が庁内に少なくなかった。加えて、「もう少し事例を集めてから方針を示した方がよい」といった慎重派もいたため、注記での記載となった。
25年版では本記に載ったところを見ると、融和派などと問題意識の共有が進んだようだ。ファンドラップが抱える問題(金融庁のレポートには「総コスト控除後の期待リターンがマイナス」とある)に当局が懸念を深めている表れといえる。
ただし、ファンドラップについては提供会社がモデルポートフォリオを見直して期待リターンを引き上げたり、期待リターンの低い「安定型」などのコースを取り扱い停止にしたりするなどの対応が進み、問題が沈静化する兆しがある。
外国債券も24年版の注記(項番48)から、25年版は本記に格上げされた。25年版では「金融仲介で外債を扱う銀行において仲介先の証券会社が7円強のスプレッドを取っていることを把握していない」と指摘し、銀行の管理能力の不備を非難している。
銀行での外債販売はメガバンクを含めてもまだ少額だが、こうした状況を放置したまま販売額が膨らむようであれば、当局のチェックも厳しくなりそうだ。
経営者へのメッセージで実態把握を促し、
けん制機能の発揮を
25年版のFDレポートのもう1つの特徴は、FD確保に向けて「経営陣に期待すること」との章を設け、経営者に強いメッセージを発した点だ。ここで語られていることはPDCAの活用など、企業経営者からすれば当たり前の話かもしれない。
だが、経営者にダイレクトにメッセージを送ることの意味は小さくない。仕組み債を巡る問題の教訓があるからだ。当初、仕組み債の販売で処分対象に挙がったのは地銀系証券会社4社だが、様々な経緯があり1社(とそのグループ銀行)が処分された。
処分を免れた1社の母体銀行の専務クラスの役員に事情を聞く機会があった。同社では金融知識やリスク許容度、年齢などの制限を設定し、仕組み債を提案してよい取引先を法人も含めて約500件に絞っていた。
しかし、実際は「仕組み債の商品性をよく理解している」「顧客の購入意欲が強い」などと役席者の所見を付けることで提案先を拡大。最終的には当初の提案可能先の「数十倍に提案していた」という。
この専務は「まさかここまでとは・・・」と絶句していた。しかも、その実態を知ったのは当局が処分の検討を始めてからだ。
仕組み債の販売も経営者が早い段階で実態に気付いていれば、問題があれほど深刻化することはなかったかもしれない。
そこで今回は経営者へのメッセージが追加された。監督官庁の公式な報告書に「経営陣に期待すること」とあれば、まともな経営者であればその中身を熟読玩味(じゅくどくがんみ)するだろう。さらに、自社・自行の販売状況を点検するはずだ。そうでなければ我が身が危うい。仕組み債の件では母体銀行の代表取締役が辞任しているのだから。