「金融庁が高齢者向けにNISAで毎月分配型投信の解禁を検討」――。日経新聞が「プラチナNISA」に関するニュースを報じてから約1カ月が経った。この報道を裏付けるように、資産運用立国議員連盟のメンバーが4月23日に、石破茂首相に提言書を手渡した。この動きを見た運用会社や販売会社からは「毎月分配型の復活だ」とか「何のために隔月分配型を準備したのだ」といった声が聞かれた。
だが、この間のメディアの論調やネットでの世論は毎月分配型の解禁に冷ややかだ。このタイプの投信は運用効率が低く、長期の運用に適さないことに加え、高齢者優先という制度の設計思想に「また年寄り優遇だ」と受け取られネットでの評判は散々だ。
一時は分配型解禁が既定路線だったが…
高齢者向けにプラチナNISAを新設し、NISAでも毎月分配型を購入できるようになると報じたのは日経新聞だけではない。同紙が4月15日に電子版で第一報を掲載すると翌日に朝日新聞が「高齢者用NISA検討」と報じ、その翌日には読売新聞も「高齢者向けNISA新設」と続いた。両紙とも高齢者を対象にNISAで毎月分配型を解禁するという趣旨は同じだ。
既に報じられたニュースの後追いであっても自社で報じる際には改めて取材する。つまり、その情報は二重、三重に確認されたわけで、それだけ確かな話といえる。4月半ばまではプラチナNISAが創設され、高齢者が毎月分配型を購入できるという話は「二重、三重にコンファームされ、かつ重要な情報」とみられていた。
4月23日の提言に分配型を明記せず、軌道修正の余地残したか
コンファームされたはずの情報が4月後半から怪しくなる。同23日に公表された提言にはプラチナNISA導入の記載はあったものの、「毎月分配型」の文言はなかった。実際の提言には「高齢者に限定して対象商品の拡大・スイッチング解禁を図る」とある。
無論、「対象商品の拡大」で想定されているものの筆頭が毎月分配型だが、なぜ「毎月分配型を対象に」と明確に書かなかったのか。事前に幅広くメディアにリークした割にはトーンダウンした感は否めない。
実際、2024年11月に発表された前回の提言を見ると、iDeCoの拠出限度額で具体的な数字を挙げたり金融庁に資産運用業の監督を専任とする課の新設を打ち出したりするなど、細分にこだわる姿勢が印象的だ。
今回のケースも満を持して毎月分配型の解禁をぶち上げたものの、世の中の期待が盛り上がらないため、軌道修正が試みられている公算が大きい。報道の重心もプラチナNISAから現役世帯を対象とした「こども支援NISA」にシフトしている。
霞が関はネット世論の動向を注視
4月15日に第一報が流れた直後、霞が関の反応は一様に冷静だった。自分たちの頭越しにメディアに報じられて不愉快だろうと思っていただけに、意外だった。
例えば、金融庁ではNISAが恒久化されたことを受けて「70代、80代の利用者も増える。そうした年代には分配型も有効だ」とか「NISAは高齢者の利用が少ない。分配型で彼らの資産を取り込めれば、NISAはもっと大きくなる」などだ。
他方、財務省は「強いて反対しないが、簡単ではないよ」と意味ありげにささやいた。既にSNSなどネットでの反応をチェックしていたのだ。同省はネットにあおられた人たちに財務省解体デモを仕掛けられたので、この辺りの機微には敏感なようだ。
ネット世論にも耳を傾けるべきものがある。一部の過激な表現は捨象するとして、ネット上の言説は現役世代の生活苦を吐露したものといえる。
その切実さは統計を見れば一目瞭然だ。総務省の「人口推計」によれば、2024年10月1日時点の日本人の人口は約1億2030万人、1年前から90万人近く減っている。人口減少は18年連続、しかも13年連続で減少幅が拡大しており、年間の減少数が100万人を超える日も近いだろう。これは千葉市や仙台市(あるいは世田谷区)の人口が毎年消える規模で「いまさらプラチナNISAでもないだろう」というのは当然といえば当然だ。
運用立国が目指す姿とは、9月の次回提言に期待
プラチナNISAの行方は現時点では不透明としかいいようがない。震源地の永田町もこの時期に評判が悪くなりそうな施策を打ち出そうとは思わないだろう。半面、派手に打ち上げたアドバルーンをすぐに降ろすわけにもいかない。
あえて対象商品を拡大するならヘッジ目的でデリバティブ取引を利用する商品が先のようにも思えるが、いずれにしても技術的な問題だ。毎月分配型を巡るゴタゴタも、NISA資金の海外流失への批判も、根っこは同じに見える。資産運用立国が目指すこの国の姿が見えないことだ。
人口が急減する中、リスクマネーを国内に大量投下し国家改造を図るのか世界中に投資機会を求め国内に運用益を還元するのか。あるいは積み立て投資を通じてライフプランの重要性を浸透させ国民に着実な人生を歩んでほしいのか。
何のために資産運用立国を進めるのかが明瞭になれば、自ずと求められる商品も決まるのではないか。9月には提言の第3弾があると聞く。せっかく資産運用立国という立派な器を用意したのだから、次はその中に何を盛り付けるのかといった議論を期待したい。