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「顧客意向」を盾に取る釈明に「喝」!?新FDレポートの見逃せない5つのポイント

川辺 和将
川辺 和将
金融ジャーナリスト
2025.07.23
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「顧客意向」を盾に取る釈明に「喝」!?新FDレポートの見逃せない5つのポイント

金融庁が公表した「リスク性金融商品の販売・組成会社による顧客本位の業務運営に関するモニタリング結果」(通称「FDレポート」)。顧客の理解度やリスク許容度に応じた営業活動が行われているかどうかなど、これまで当局が繰り返し示してきた問題意識を基本的に踏襲しつつ、従前よりも入念に、事業者の「逃げ道をふさぐ」ことに重きを置いたような記載が随所に見られます。注目しておきたい5つのポイントを解説します。

(1)短期売買批判、外国株式にも矛先

金融庁はこれまで投資信託、外貨建て一時払保険、仕組債などについて、顧客にとって経済合理性に乏しい短期売買や回転売買を行わないよう、たびたびクギを刺してきました。今回のレポートでは、外国株式についても短期売買の慣行をいましめるような記述がみられます。

 

金融庁は、2023年度から外国株式の買付・売付額が増加傾向にあることを受け、売却率を含む販売状況を調査。その結果、「中長期運用を希望する顧客に対し、取引の8割が3ヶ月以内の短期取引となっていた」、あるいは「良好な相場環境下で、顧客が販売会社に支払った手数料が顧客利益の10倍~20倍に上った」といった事例が見られたといいます。

 

さらに、外国株式の「みなし資産回転率」(売買金額を預かり資産残高で除した値)と「みなし顧客損益額」を分析したところ、資産回転率が高くなるほど顧客の利益が小さくなる傾向が示されたと指摘。「過度な売買は顧客利益の押下げ要因となり得る」と記し、現物株についても当局として短期売買や回転売買を見逃さない姿勢を示しています。

 

(2)グループ間(銀証)でのけん制を促す

外国株式の短期売買をめぐる懸念に関連して、銀行から証券会社への顧客送客におけるグループ内・提携先連携についても言及しています。

銀行側が、送客基準通りの送客ができているかの検証状況については、大半の主要行等・地域銀行が「全ての顧客について検証している」と回答。一方で、主要行等の約3割、地銀の約1割で「一部は検証している」、地銀の約1割で「検証していない」との回答もみられ、取組状況はまちまちのようです。

また、レポートでは好事例として、「銀行が証券会社への送客後、顧客の取引状況をフォローアップし、顧客の投資目的と異なる商品購入があった場合に、その事情や勧誘状況を銀行側から証券会社に、あるいは顧客に直接確認している」といったケースを取り上げて紹介しています。同一グループ内の銀証間であっても、顧客本位の観点から牽制し合える関係を構築するよう促しているようにも読めます。

 

(3)評価体系と販売行動の関係に切り込む

金融機関の業績評価体系が従業員の販売姿勢に与える影響についての調査では、個別商品ごとに収益評価を行っている金融機関は、そうでない金融機関に比べて「相対的に手数料が高い金融商品」を多く販売している傾向があると指摘しています。

営業店の業績評価において「フロー性要素」(販売額等)の寄与度が高い金融機関では、投資信託の販売額割合が低い一方で、相対的に手数料が高い金融商品や外貨建て一時払い保険の販売額割合が高い傾向があるとも指摘しました。

また、アンケート調査によると、主要行等ではフロー性要素より残高などストック性要素を重視する傾向がみられたといいます。一方、地銀ではフローの評価割合が50%を超える先も一定数存在するとの分析結果を示しています。

 

(4)ターゲット型保険、「顧客意向」の口実にイエローカード

FDレポートといえば、かつて、複雑な仕組債への批判を展開して注目を集めましたが、仕組債の販売が低調となった最近は、外貨建一時払保険、とりわけ解約返戻金額があらかじめ設定した目標に到達すると自動的に円建の終身保険などに移行するターゲット型保険へと主戦場が移っていった経緯があります。

今回のレポートでは、目標値が低いほど乗換販売が誘発されやすいとの問題意識を念頭に、ターゲット型保険の目標設定状況に関する調査結果を掲載。当局の働きかけを受け目標値1割以下の割合は減少傾向にあるものの、依然として一定数の販売会社で低水準の目標設定が見られると指摘しています。

その上で、注釈で「販売会社からは、顧客の意向を踏まえて低い目標値を設定しているとの声が聞かれるが、それが不合理な乗換につながっているのであれば、顧客はターゲット特約の内容や解約控除・市場価格調整の影響、再加入時に生じるコストを十分に理解していない可能性がある」と指摘。「当該保険を購入するために必要となる知識・経験が備わっていない懸念があることにも留意する必要がある」として、顧客意向を盾に取るような事業者側の釈明をけん制しています。

 

(5)経営陣への発破かけ

加えて今回のレポートでは、これらの論点を踏まえた対応を、現場任せにすることなく、経営層が関与し、責任をもって主導するよう求めています。

たとえば業績評価体系については、経営陣の主体的な関与の下、「営業現場が、金融機関の短期的な利益や自身の営業目標等を優先し、顧客の利益に適わない金融商品を販売する誘因を抑え、顧客の最善の利益に資する金融商品を自発的に推奨・販売する行動を方向付ける業績評価体系を策定することが重要」と指摘しています。販売会社の経営陣に対し、「顧客本位に基づくリテールビジネス戦略(中期経営計画)等を策定」した上で、「営業目標(販売目標・収益計画)を設定する(特にトップダウンで設定する)場合には、営業現場による顧客本位の業務運営を阻害しない適切な目標とする」よう、念を押しています。

顧客本位の観点で何か問題が発覚した際、経営層が現場に責任を押し付けて逃げ切ることのないよう、あらかじめ退路を断っておくといった狙いも読み取れます。

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著者情報

川辺 和将
かわべ かずまさ
金融ジャーナリスト
金融ジャーナリスト、「霞が関文学」評論家。毎日新聞社に入社後、長野支局で警察、経済、政治取材を、東京本社政治部で首相官邸番を担当。金融専門誌の当局取材担当を経て2022年1月に独立し、主に金融業界の「顧客本位」定着に向けた政策動向を追いつつ官民双方の取材を続けている。株式会社ブルーベル代表。東京大院(比較文学比較文化研究室)修了。
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