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【特別対談】本音で語る“顧客本位”の理想と現実 現場と行政の対話が照らす「これからの投信窓販」
① 「長期・積立・分散」だけが顧客本位なのか

金融庁市場企画室長兼資産運用改革室長 今泉宣親氏 ×フィデューシャリー・パートナーズ 森脇ゆき氏

finasee Pro 編集部
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2025.07.02
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【特別対談】本音で語る“顧客本位”の理想と現実 現場と行政の対話が照らす「これからの投信窓販」<br />① 「長期・積立・分散」だけが顧客本位なのか

「顧客本位の業務運営」が求められて久しいが、現場では戸惑いの声も多い。新NISAの導入や一部商品への規制強化などが進む中、制度と現場、理念と現実の間にあるギャップは埋められているのか。金融庁・今泉宣親氏と現場の最前線に立つ森脇ゆき氏が、顧客本位の在り方や投信窓販の今後を巡って率直に語り合った。(全3回)

「長期・積立・分散」だけが顧客本位なのか

森脇氏

投信販売の現場で研修を行った後のアンケートで「ぜひ支店長にも聞かせたい」といった声がよく寄せられます。顧客本位の業務運営がなかなか現場で実現できない背景には、金融機関の経営層や支店長クラスの意識が関係しているのではないかと感じています。

今日は、現場の立場からそうした声を今泉さんに直接届けつつ、投信窓販のあるべき姿について考えたいと思っています。

では、さっそく最初の質問です。

これまでのNISA制度は主に若年層・現役世代の一般生活者の「資産形成」の支援という文脈で広がってきました。このため窓販業務において「長期・積立・分散」でお客さまに案内することを掲げ、現場の職員に求めている金融機関が多くあります。

これにより、現場職員からは「積み立ての案内はできるが、一括投資の提案ができない」「NISAの枠内でしか提案できない」などの悩みが多く寄せられています。

確かに、手元にまとまった資金がなく、これから資産形成を行う若い世代には有効な提案方法の一つですが、十分な余裕資金のある退職者世代などが運用する場合には必ずしも最適ではないはずです。しかし実際には金融機関の経営層や管理者層が「長期・積立・分散」投資こそ顧客本位の営業方法だと教条的に考えて現場に指示を出す状況が見受けられます。しかしNISA制度では、つみたて投資枠だけではなく、成長投資枠も設けられています。つまり、NISAの制度設計そのものが、それ以外の投資スタイルも一定程度、織り込んでいると言えるのではないでしょうか?

 

今泉氏

顧客本位の業務運営に関する原則は2017年に策定されました。その「原則6」では「顧客にふさわしいサービスの提供」が求められています。これは、まず顧客の状況を把握し、その顧客に合った商品やサービスを提案するということです。

投資商品を購入する多くの方において、資産形成や長期投資を目的にされることは珍しくないと思います。例えば60歳の方であっても、人生100年時代を考えれば、必ずしも短期的な視点だけとは限らない。ですから、「長期・積立・分散」は多くの方にとって有効で、普遍性のある考え方です。

もちろん、短期トレーディングを望む方や多額の資産をお持ちでさまざまな運用を望む方、あるいは資産を運用しながら取り崩すことを望む方もいらっしゃると思います。そういったニーズに応じて、「長期・積立・分散」に限らず、ふさわしい商品や戦略があるケースもあるでしょう。

一番大切なのは、やはり顧客の状況をしっかり把握いただくことと思います。その際、全てのお客さまが、自分自身が選択すべき商品やサービスを完全に理解されているわけではないと思うので、金融機関の皆さんには、顧客の状況を把握いただいた後は、プロとして「こういった商品やサービスがふさわしいのではないか」と、顧客の状況に適った提案をしていただくことが重要だと考えます。

 

森脇氏

現場では「NISA口座の獲得件数目標を達成せよ」「他金融機関で開設済みなら当金融機関へ移してもらえないか?」などの言葉が飛び交い、NISAという本来は手段である制度が目的化しています。しかしNISAがあるから投資をするのではなく、お客さまが何を望んでいるのかを見極めた上で、必要ならNISAを手段として使えばいいだけの話です。

NISAに限らず制度がどのように変わっても、お客さまの目的を達成するための手段として使えばいい。そこを混同すると、「NISA=長期・積立・分散=顧客本位」と誤解される危険があります。

 

今泉氏

おっしゃるように、顧客の状況を無視して、制度の活用そのものが目的化してしまうと、制度の本来の意義が失われてしまいます。ただ、NISAという制度がつくられた背景に、改めて触れさせていただきたいと思います。かつて、例えば、通貨選択型の投資信託など、必ずしも「長期・積立・分散」による資産形成には向いていない商品が、資産運用の手段として、販売される状況が続いていました。そこで、国民の皆さまの中長期の資産形成を後押しする観点から、NISA制度、特につみたてNISAを導入し、金融機関には、NISA口座向けに資産形成に資する商品の提供をお願いしてきました。NISAは多くの顧客のニーズとして考えられる資産形成のための枠組みとして導入したものです。

本当に重要なのは、森脇さんも指摘されているように顧客ニーズの本質を金融機関の側がプロとして正しく見極めて、それを適切な提案へとつなげていただくことでしょう。

顧客本位の業務運営の原則はプリンシプルベースで、「これをしなければならない・してはならない」という最低基準を画する「ルール」ではありません。「顧客のために最適な判断をしていただくこと」を前提としています。

従って、顧客の状況を無視して制度の活用を目的化したり、「顧客に言われた」ものであれば何でも販売するのではなく、顧客の状況を把握いただいて、「本質的なニーズ」に適うような提案などをしていただくことが重要ではないかと思います。金融機関にとっても、顧客が付加価値を受けとり、信頼を高めていってくれることで取引が広がる・顧客基盤が広がる、その結果、金融機関も持続的に利益を得られるようになる、といった好循環が望ましいのではないでしょうか。顧客と金融機関がWin-Winとなっていくことが、当局としても望む姿です。

「長期・積立・分散」だけが顧客本位なのか

森脇氏

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