――良好なKPIを実現できるのはなぜでしょうか。
当社の口座数は現時点で9000弱ありますが、全顧客に同一のポートフォリオを勧めています。それは、金融商品の販売側を利するための提案や、顧客の資産・収支・親族構成等を把握しない助言は意味を持たないと考えているからです。 また、きめ細かいポートフォリオ提案はかえって分かりづらい印象を与え、これから投資を始めようとする人を遠ざけてしまう可能性があるからです。
そのポートフォリオの見直しは、直近だと2020年に実施しました。現在は「フィデリティ・米国優良株・ファンド」「グローバル・ボンド・ポート(Cコース)」「JPMザ・ジャパン」「SMT グローバルREITインデックス・オープン」などが大半を占めています。当社は創業から25年が経ちますが、ポートフォリオを変更したのは2020年を含め過去2回だけです。
当社としては目先のパフォーマンスを追うよりも、いったん投資を始めた顧客があきらめないよう促す取り組みのほうが、はるかに重要であると考えています。
当社のサービスでは創業時より、マーケット動向に大きく左右される一括投資は原則受け付けていません。お客さまは全て積み立て投資を行っており、月々の積み立て額の平均は4~5万円となっています。
当社の口座数が急速に増加したのは2010年以降です。リーマン・ショックを受けて当社が顧客に展開したフォローが好評で、一気に口コミが広がりました。大阪で屈指の乗降客を誇る阪急梅田駅のターミナルビルに本社を移転し、ここでマネーセミナーを頻繁に開催したことも功を奏しました。現在も口座開設者向けに年2回開くセミナーを重視しており、お客さまには必ず参加していただくよう呼び掛けています。
セミナーでは相場や商品の知識を深める内容というよりも、お客さまが資産形成の必要性を実感し、投資を続けることに自信が持てるようになるためのモチベーション・アップが中心です。
2010年以降はもとより、創業時から当社で運用を始めたお客さまは、今もほとんどが続けていらっしゃいます。相場の急落に動揺せず、積み立て投資を粘り強く継続してきた顧客層の存在が、結果として共通KPIでの高評価に表れています。
――投資助言業にも参入した理由は。
当社の事業はFP事業(会員制)と金融商品仲介業と保険代理店業の3本柱ですが、2020年からクライアント向けに投資助言サービスを開始しました。それぞれの世帯の状況や人生設計などを伺うなかで、ゴールを設けたライフプランニングに基づく運用の必要性を痛感し、投資助言業への参入を決めました。
とはいえ、助言業の登録手続きには2年もかかりました。他のIFAでも仲介業と助言業を兼ねているところは、仲介は個人向け、助言は法人向けとすみ分けることで利益相反を回避する社が多いようです。当社は助言業も個人向けに展開したかったため、当社の仲介業では扱っていないDCに限ったアドバイザリー業務を始めることにしました。
ですから当社の場合は、同じ世帯のお客さまでも「夫は仲介、妻は助言」という事例もあります。一般的にはNISAとiDeCoの違いでさえ、それほど知られていないのが現状です。DC限定の助言であっても、これまでとは別の角度からサービスを提供できるようになり、より顧客の課題に寄り添えるようになりました。
――今後の展望は。
当社は営業においては、数値目標に基づくノルマを設けていません。また、お客さまの資産の増加をひたすら目指しているわけでもありません。それは、それぞれのお客さまに対して資産形成のゴールの金額を設定している中で、当社の営業目標が優先されてしまうようでは本末転倒になってしまうからです。仲介の口座数が5000の大台に乗った2016年からは営業の開拓もやめて、新規のお客さまは既存の顧客からの紹介に限りました。顧客のフォローがおろそかになってはいけませんので。
そして23年夏、一時的ではあるものの久しぶりに新規顧客の開拓を再開しました。新NISAのスタートを前に個人の投資熱を取り込む好機とみて、セミナーを通じて約500口座を獲得しました。今後も当社の応対能力を勘案しつつ、新たな顧客の拡大に努めてまいります。