2018年5月、東京都民銀行、八千代銀行、新銀行東京の合併によって誕生したきらぼし銀行。同行を中核とする東京きらぼしフィナンシャルグループはここ数年で先進的な施策を次々に打ち出し、2022年にはスマホ専用のデジタルバンク・UI銀行を開業したことでも話題となった。
預り資産業務においては、きらぼし銀行ときらぼしライフデザイン証券が両輪となっているが、それぞれのキーパーソンの話をもとに、同グループが目指すコンサルティング営業の理想像を明らかにしたい。
東京きらぼしフィナンシャルグループの預り資産業務は、きらぼし銀行ときらぼしライフデザイン証券(以下、KLD証券)の「銀証連携」を中核として推進されてきたが、その関係性は足元でより強固なものになりつつある。きらぼし銀行では、主に富裕層を対象とした本部営業と営業店の支援を担うPB推進部を2022年に新設。さらに2025年10月には、PB推進部のメンバーのうち約30人がKLD証券の所属となった。
個人営業推進部長 PB 推進部長 川村 秀輝氏
「本部営業を一体化することで一層の連携強化を図りました」と、体制変更の狙いを説明するのは、きらぼし銀行の個人営業推進部長で、PB推進部長も兼ねる川村秀輝氏。「その結果、本部営業と営業店の支援機能がKLD証券に集約されるとともに、独自の営業もできる体制となり、グループとしては証券自体のさらなる成長も目指しています」
「支社体制」への移行によって
富裕層ビジネスの強化を図る
KLD証券は2020年8月に開業したが、当初は少数精鋭の体制であり、きらぼし銀行の行員をフォローするのが主なミッションだった。そこから大きく方向転換した格好だが、「今後は預り資産額1000万円以上のお客さまへの証券営業は、基本的にKLD証券が担当する形になり、これまで以上に多様なニーズに応えることで富裕層ビジネスを強化していきます」と川村氏は続ける。
長年、きらぼし銀行で預り資産業務の商品企画などを担い、2025年4月からはKLD証券の営業企画部長を務める塩田晴章氏も、「グループとして富裕層ビジネスの強化を目指している中、当社にはこれまで以上に高い専門性が求められています」と話す。「単なる陣容の拡大にとどまらず、今後はそれぞれがさらにスキルアップしていかなければなりません。商品に関しても、証券ならではの商品として、株式や債券などを取り扱ってきたのはもちろん、2025年12月にはSMA(Separately Managed Account)も導入しました。それでもまだ十分とは言えませんから、商品はさらに拡充していく必要があるでしょう」
このKLD証券との連携強化に加え、きらぼし銀行にとって大きな転機となったもう1つの施策が「支社体制」への移行だ。同行の店舗数は160を超え、これまでは各営業店の担当者が預り資産業務を担ってきたが、その担当者の支社への集約を2024年7月から段階的に進めてきた。移行は2025年8月の横浜支社の営業開始をもって完了し、現在は13支社の体制になっている。
「従来の体制だと隣接する店舗で営業エリアが被るケースなどもあったものの、現在の支社体制ではより効率的に営業できるようになっています。また、店舗単位だと営業担当者が孤立しがちなことが大きな課題となっていましたが、支社には複数の担当者がいるため、それが解消されるという利点もあります。横の連携を深めることでスキルの向上につながっている面もあり、今後は高難易度案件の獲得にも注力していきたいと考えています」(川村氏)。
きらぼし銀行では近年、法人部門を中心に事業承継やM&Aの仲介などに力を入れ、成果もあがっていた一方で、結果として生み出された資金の個人部門での取り込みは、必ずしも順調に進んでいなかった。支社体制の導入は、相続なども含むそうした高難易度案件に対応できる人材育成も意図したものでもあり、支社単位でノウハウを蓄積し、広げていくという狙いがある。「いわば横の連携と縦の伝承をスムーズに行うための体制」だと川村氏は話す。
営業担当者が「ハブ」となりグループのリソースをフル活用
この支社体制への移行とともに顧客セグメントに応じた戦略も再構築され、預金を含むグループ内の資産1億円以上の顧客については、支社長、または支社内の営業部長が対応する形となった。さらに5000万円以上の顧客を「富裕層」と位置づけ、富裕層を含めた資産2000万円以上の顧客は支社の個人営業担当者が訪問して対応する。資産2000万円未満、1000万円以上の顧客は従来通り、営業店の担当者が受け持つものの、訪問ではなく来店誘致をして対応するのが原則だ。さらに資産1000万円未満のマスリテール層については、基本的にきらぼし銀行のアプリやUI銀行などの非対面チャネルで対応するという形で整理されている。
ただし、これらはあくまで顧客の同意を得ることが前提であり、支社によって事情が異なるケースもあることから、支社ごとに金額のラインを変更するといった裁量も認められているという。前述の通り、預り資産額が1000万円以上の顧客については、基本的にKLD証券が担当する。もちろん、証券の担当者と銀行の担当者とが一緒に顧客を訪問するケースもしばしばあり、特に富裕層以上には両者が一体となって多様なニーズに応えられる体制を整えたわけだ。
「陣容拡大によって証券が独自の営業をできるようになったとはいえ、やはりお客さまの基盤が銀行である点に変わりはありません。ですから、支社との連携はさらに深めていかなければなりませんし、特に対面営業ではお客さまと頻度高く接触することが重要になってきます。一方で、UI銀行の金融商品仲介でお取引きいただくお客さまもいますから、非対面チャネルについても充実させていく必要があり、私たちに求められる機能も多様化しているのです」(塩田氏)。
銀証連携がさらに進展する中、支社の営業担当者に特に求められるのは、「『ハブ』としての役割」だと川村氏は強調する。「KLD証券のほか、グループには事業承継やM&Aのコンサルティングを行うきらぼしコンサルティングなどもあります。顧客のニーズを探りながら、支社の営業担当者がハブとなってそうしたグループのリソースをうまく使い、高難易度案件にも対応していく。支社体制はその後押しをするための仕組みだと言ってもいいでしょう」
「ライフデザインシート」で顧客の「想い」を明確にする
この支社体制への移行が、きらぼし銀行にとって大きな変化だったのは言うまでもなく、販売現場には少なからぬ戸惑いがあったのも事実。そのため移行の過程では経営陣が各支社を訪れ、その狙いやメリットなどを直接、説明して回ったという。その効果もあってか、支社体制は順調に浸透していき、「今では銀行全体になじんでいる印象です」と、当初は当事者として、後半は証券の立場で今回の移行を見てきた塩田氏は話す。
移行の完了からまだ半年足らずであるものの、すでに成果も出始めている。「やはり最大の狙いは富裕層のお客さまの開拓と関係強化ですから、まずは富裕層の先数増加をKPIにしていて、その数は確実に増えてきています」と川村氏。「先数を増やすためには活動量がカギとなり、現在は1日に10件、富裕層のお客さまを中心に接触することを目標にしています。従来は1日3件程度が精いっぱいでしたが、直近では平均で6件から7件ほどにまでなっています。まだ途上ではあるものの、すでに倍以上の活動量になっているわけです」
もちろん、単に接触するだけではなく、コミュニケーションを深める工夫も凝らしている。その1つが「ライフデザインシート」の作成で、顧客の属性、家族情報、資産の状況などをヒアリングし、CRMに蓄積しているという。「それだけであれば特に目新しい取り組みではないかもしれませんが、足元で力を入れているのがお客さまの『想い』をしっかり伺うこと。私たちが目指しているのはコンサルティング営業ですから、お客さまのお考え、目標が分からなければ、そもそもコンサルティングになりません。想いを伺う過程で見えてきた課題に対し、グループのさまざまなリソースの中から最適なソリューションを選択し、解決していく。それができて初めて、コンサルティング営業だと言えるのでしょう」(川村氏)。
今後はCRMに蓄積されたデータを分析し、最適なソリューションを自動的にレコメンドする仕組みなども模索しているという。前述の接触数に加え、このライフデザインシートの作成にも目標が設定されているが、「いくら成約したという結果だけではなく、そこに至るプロセスをいかに評価するかが重要だと捉えています」と川村氏は話す。
一方で、課題となっているのは潜在的な富裕層をいかに開拓するか。現状は銀行および証券の資産額で階層を分けているものの、法人としては取引があっても、そのオーナー個人との取引がほとんどないケースもある。現在は東京の地価が急激に上がっていることもあり、資産の大半が不動産という顧客も少なくない。
そうした潜在的な富裕層を開拓すべく、例えば法人担当と個人担当が同行するケースなども増えている。しかも、インフレリスクが顕在化しつつある今、法人オーナーにとどまらず、法人自体の運用ニーズも確実に増大しているという。東京という潤沢な地盤を有する同行だけに、富裕層ビジネスのポテンシャルはまだまだ大きいに違いない。
支社体制の導入によってその強化は着実に進んでいて、「目線が変わってきているのは確か」だと川村氏は手応えを語る。「単に商品を案内するだけ、あるいは法人担当であっても、単に貸出だけをすればいいといったマインドからは脱却しつつあります」
長期投資を根付かせることで「共通KPI」の好成績を実現
ここまで見てきたように、2025年度がきらぼし銀行、KLD証券にとって大きな転換点となったのは間違いない。併せて、きらぼし銀行の誕生以降に打ち出してきたさまざまな改革についても、着実に実を結びつつある。象徴的なのが共通KPIの「投資信託の運用損益別顧客比率」で、金融庁が公表したランキングでは、きらぼし銀行が地域銀行の中で第2位となった(2025年3月末基準)。同じくKLD証券も、地銀系証券会社の中では第3位となり、いずれも顧客にしっかりリターンを提供できていることが分かる。
その最大の要因は、「お客さまの保有年数が長くなっていることにある」と塩田氏は分析する。「しっかり長期投資を啓発してきたことに加え、商品についてもコストの低さや運用成績などをモニタリングしながらラインアップしてきた点が、成果として表れているのではないでしょうか。お客さまに喜んでいただいているのは確かですし、ご自身が満足されているがゆえに、ご紹介をいただいたり、ご家族の取引にもつながったりと、信頼関係が深められているという実感もあります」
川村氏も、「当グループでは『TOKYOに、つくそう。』をパーパスに掲げ、お客さまの課題解決(=利益の最大化)を目指してきましたから、その結果が数字としても表れたのは非常にうれしい」と話す。「ただし、それに甘んじることなく、利益が出ているからこそ、分散投資をお勧めするといったコンサルティングを今後も実践していきたいと考えています」
着実に次のステージへと向かっているきらぼし銀行とKLD証券。最後に、それぞれが目指す今後のビジネスの理想像を話してもらった。
「インフレが進む今、資産を預金だけで持っていては目減りしてしまうリスクが高まっています。まずはお客さまに資産運用に目を向けていただき、資産をしっかり増やしていただく。あくまでその結果として、私たちも報酬をいただくというのが在るべき姿なのでしょう。富裕層ビジネスと言っても、単に富裕層のお客さまを対象にするというだけではなく、お客さまが富裕層へと成長するお手伝いもする。それが私たちの役割であり、役割を果たして初めて、お客さまに選んでいただける存在になれるのではないでしょうか」(塩田氏)。
「私たちが目指しているのは、金融だけではなく、金融を中心としながらも多様なソリューションを提供できるグループです。営業担当者はそのハブとしての役割を果たすわけですが、何も銀行だけでなく、証券がハブになっても、他のグループ会社がハブになっても構わないのは当然のこと。それぞれがハブとなり、グループのリソースをお互いに活用し合うことで、他の金融グループとは異なるユニークな存在になり得ると考えています」(川村氏)。
ソリューションが増えれば増えるほど、その選択は難しくなり、担当者には高いスキルが求められる。ただし、事例を積み重ねることで選択は徐々に容易になっていき、精度も磨かれていくはずだ。そうした事例の蓄積、共有の土台となるのが、支社体制だと言ってもいいのだろう。東京きらぼしフィナンシャルグループが目指すコンサルティング営業の在るべき姿が、今まさに明らかになりつつあるのかもしれない。

