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【みさき透】NISAの番外地、アライアンス・バーンスタインの「米国成長株投信」はなぜ売れる

finasee Pro 編集部
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2024.05.24
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【みさき透】NISAの番外地、アライアンス・バーンスタインの「米国成長株投信」はなぜ売れる

新NISAがスタートして5カ月近くが経った。低コストのインデックス投信を中心に同制度を経由した資金の流入が続いている。NISAが国民の資産形成手段として定着しつつあることがうかがえる。一方、こうした流れと別の動きも見られる。同制度のつみたて投資枠はもちろん、より広範な運用商品を購入できる成長投資枠でも取り扱い不可の毎月分配型投信への資金流入だ。

中でもアライアンス・バーンスタインの「米国成長株投信Dコース」の健闘が目立つ。同投信は新NISAが始まった2024年に入っても売れ筋上位に食い込んでおり、5月21日時点の純資産総額は2兆8000億円強に達する。

官民を挙げて推進するNISAから除外されている投信になぜ資金が集まるのか。その背景を探ってみた。

Dコースは4カ月で2832億円の純資金流入、年2回分配型の2倍半

「米国成長株投信」は為替ヘッジの有無や分配頻度によりAからEまでの5つのコースがある。主力のDコースは為替ヘッジはせず、分配金を毎月払う。分配方針には基準価額の水準に応じて分配額を決める「予想分配金提示型」という仕組みを採用している。際限のない分配競争に巻き込まれ、元本取り崩しに陥らないための工夫だ。

このDコースには24年1月から4月までの間に2832億円の純資金流入があった。前年の同期間は694億円の純資金流失だった。当時に比べ足元で運用成績が回復している面もあるが、毎月分配型を除外する新NISAの発足という逆風下でこの実績は同社でも「予想外の売れ行き」(中鉢勝・執行役員投資信託部長)と驚く。

同社がNISA向けに期待していた年2回分配型のBコースは24年に入ってからの4カ月の販売実績は1134億円の純資金流入とアクティブ投信の中では好調だが、毎月分配型の流入額はその2.5倍近くに達している。

24年スタートが制約、成長枠の位置付けが不明確に

新NISAが資本市場を活用した資産形成の必要性を多くの現役世代に認めさせたことは間違いない。半面、シニア世代を中心にしたもうひとつのニーズ、積み上げた資産を効率的に活用したいという欲求をすくい上げていないのではないか。同投信のDコースの販売好調を見てそんな印象を持つ。

新NISAが構想された2年前に戻すと、同制度は官邸が発案し、金融庁が制度設計を担ったものだが、24年に制度開始という「必達目標」を課せられたため、細目を詰め切れなかった面がある。

そのため、成長投資枠の性格に曖昧さが残った。積み立て投資枠を現役世代が資産形成するためのものと位置付ける一方、成長投資枠は資産形成を終えたシニア世代向けと明確に打ち出せば、後者で毎月分配型を購入しても目くじらを立てる必要はなかったはずだ。

仮に、生きている間に個人の資産を使い切ると考えれば、元本を取り崩す特別分配を支払っても不合理ではない。その事実を顧客に理解してもらえばよいことだ。

22年暮れの税制改正で現行ルールが定まったときはアライアンス・バーンスタインの社内でも失望感が強まった。予想分配提示型という仕組みを取り入れ、「せっかくタコ配になりにくい商品を作ったのに、それまでダメでは投資家のためにならない」(中鉢氏)と考えているからだ。

大手証券や証券子会社で売れ筋に、富裕層が購入する構図

しかし、現実のビジネスは出来上がった制度に対応していく必要がある。同社では「米国成長株投信」のシリーズでも新NISAの対象となる年2回分配のBコースのプロモーションに力を入れたり、同じく新NISA対象の隔月分配のEコースを追加したりして新制度に備えた。

だが、ふたを開けると新NISA対象外のDコースの販売が加速することになった。これは税制メリットより毎月の分配金を好み、年360万円を超える投資資金を抱える顧客層の存在が大きく、そこにビジネスチャンスがあることを示唆している。

業態ごとの販売動向を見ると野村、大和、三菱UFJモルガンスタンレーといった大手証券会社の売れ筋上位(24年1~3月期)に同投信のDコースが入っている。大手証券にとって投資額が最大でも年360万円の新NISAは「それほど妙味のある商売ではない」のが本音だ。主要顧客はより大口の層なので、これらの販売会社で新NISA非適格の商品が売れ筋でも不自然ではない。

同投信は地方銀行グループでも人気だ。例えば、七十七、静岡、滋賀などで売れ筋に入っている。横浜銀行の24年1~3月期の売れ筋首位はインデックス投信だが、グループの浜銀TT証券では「米国成長株投信」のDコースが売れ筋になっている。富裕層を証券子会社に紹介し、グループ内で役割分担する戦略がうかがえる。

「売れ筋」の発信力が影響!?、美しい構図はどこまで有効か

この商品の人気を支えているのは新NISAの投資枠を超える資産を持つ富裕層で、そもそも同制度の税制メリットを享受できない。大手証券会社や地銀の証券会社はそうした富裕層に高度なアドバイスを提供しつつ、制度のルールに縛られずに幅広い商品を提案している。話がここで終われば美しい構図であるといえ、毎月分配型が人気でも問題はない。

しかし、一部の販売会社は足元の売れ筋商品としてこの商品を紹介し、購入額が制度の枠内の小口客にも販売しているケースが漏れ伝わってくる。

当局も新NISAが始まったにもかかわらず、毎月分配型が売れ続けていることをいぶかしげに見ている。残高ベースでは富裕層が多いとしても「件数ベースでは小口客への販売が上回っているのでは」と懸念しているのだ。顧客も販売員も「売れ筋情報に躍らされているのでは」との指摘もある。

言うまでもないことだが、新NISAを利用するとしないでは手取りの投資成果がまるで違う。仮に月100円の分配金が支払われても20円は税金として徴収される。このことは繰り返し顧客に強調すべきことだ。

また、多額の資金が流失する毎月分配型よりも分配頻度を抑えたタイプの方が残高を伸ばしやすく、ビジネスの観点からも有利だ。売れ筋の後追いで毎月分配型を提案することは販売会社にとっても自分の足元を掘り崩すことに他ならない。毎月分配型の扱いは慎重を期した方がよさそうだ。

 

みさき透

新聞や雑誌などで株式相場や金融機関、金融庁や財務省などの霞が関の官庁を取材。現在は資産運用ビジネスの調査・取材などを中心に活動。官と民との意思疎通、情報交換を促進する取り組みにも携わる。

新NISAがスタートして5カ月近くが経った。低コストのインデックス投信を中心に同制度を経由した資金の流入が続いている。NISAが国民の資産形成手段として定着しつつあることがうかがえる。一方、こうした流れと別の動きも見られる。同制度のつみたて投資枠はもちろん、より広範な運用商品を購入できる成長投資枠でも取り扱い不可の毎月分配型投信への資金流入だ。

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