先日、株式会社想研が実施した「法人IFA社長アンケート2023」の報告書サマリーが公開された。このアンケートは2023年7~8月にかけて実施されたもので、金融商品仲介業者(以下、「IFA」)64社の回答を取りまとめたものとなっている。
金融庁の「金融商品仲介業者登録一覧」には677社・者(2023年10月末時点)が載っており、その大半が法人形態となっている。当報告書は、登録業者の約1割の回答を踏まえたものであり、また、回答者の登録年や本社所在地も適度に分散していることより、我が国のIFAの実態をかなり反映していると言えよう。
複数の取引業者との契約でリスク管理が複雑に
いくつかのアンケート結果に注目したい。まず、5割のIFA法人で「金融商品取引業者との契約数」が複数あるという点だ。複数の金融商品取引業者と契約するのは、顧客にとってより良い条件で商品やサービスを提供することが可能となるからというのが最大の理由だろう。
一方、複数契約は一社契約に比べ、IFAと契約先双方においてリスク管理がより難しくなる。各金融商品取引業者は、独自にコンプライアンス体制を構築して所属IFAの監督を行っているが、基本的に自社との取引に対する管理にとどまり、他社の取引を含めた総合的な管理は、IFAが自主的に行う必要がある。
例えば、IFAの自己勘定取引や高齢者取引、通話録音、乗換取引、顧客苦情対応などにおいて、金融商品取引業者の間で管理手法やレベルに違いがあるところ、IFAが自らの収益追求を優先しようとした場合、ケースバイケースで、管理の緩い業者を使い分けるのではないかとの懸念がある。こうした見方を払しょくするには、金融商品取引業者の間で所属IFAに対するコンプライアンス管理の目線を合わせる必要があるだろう。また、各金融商品取引業者が別々に実施している所属IFAに対する定期・不定期の実地検査に関し、例えば、中立的な第三者機関がIFAと各業者との取引を全て並べて、総合的・包括的に同一目線でチェックを行うようにすることも一案である。
コンプライアンス意識の低さ 問題の根源はIFA?委託している取引業者?
一方、「金融商品取引業者を選ぶ際に重視するポイントは何か」(複数回答可)という質問については、「取扱商品の充実度」(59.4%)、「サポート部署の対応の手厚さ」(56.3%)、「システムの使いやすさ」(50.0%)という回答が上位を占める中、「コンプライアンス管理」は29.7%という数字であった。
若干話は逸れるが、今年の夏ごろ、IFAにおける仕組債販売に関し、金融庁幹部より話を伺う機会があった。その際、「IFA自らが、より深度をもってコンプライアンス管理を行う必要があるだろう。」と感想を述べたところ、幹部よりは「まずは、委託している金融商品取引業者こそが、IFAが顧客の属性や取引実態を的確に把握し得る顧客管理態勢を確立するように指導するとともに、IFAの投資勧誘実態を把握したうえでコンプライアンスの徹底を求めていくことが重要ではないか。」とのコメントがあった。
このように、当局がIFA自身の牽制体制(1線、2線、3線管理)の強化よりも金融商品取引業者の指導やモニタリングを重視していることを踏まえると、、IFA法人の社長が願う以上に、IFAに対し顧客ニーズに適う商品や使い勝手の良いシステムを提供し、攻めの営業をサポートすることと同等に、質の良いコンプライアンス管理を提供することや適切な顧客管理態勢の構築支援を行うことが金融商品取引業者には求められているように思う。
富裕層とフィービジネスの相性は
次に注目したいのは、「営業収益に対するフィー(投資信託の信託報酬、ラップの管理報酬や助言報酬)の割合」が10%未満のIFAが4割を占める一方、50%以上のIFAが2割強に留まるという点だ。取引売買に係る手数料よりも取引残高に応じた手数料(フィーベース)の方が顧客及びIFAの安定的な利益に資するという話は長年言われ続けているところだが、IFA業界では、いまだに売買手数料が主流となっている様子がうかがえる。
保険代理店業務を行うIFA(40社)において、全体の営業収益に占める(基本的に売買手数料で構成される)保険代理店業の営業収益の比率が5割以上となっている先が半数以上であることや、「ターゲットとなる顧客の金融資産額」(複数回答可)における上位が「3,000万円~5,000万円未満」(65.6%)、「5,000万円~1億円未満」(64.1%)、「1億円~2億円未満」(59.4%)となっている。運用資金に余裕があり、投資経験も相応に積んでいると思われる富裕層~準富裕層がメインの顧客であることもフィーベースが主流とならない要因かもしれない。
加えて、「貴社にとっての経営上の課題」(複数回答可)という質問への回答として、「人材の採用(アドバイザー)」(56.3%)や「新規顧客開拓」(50.0%)、「富裕層・超富裕層の開拓」(40.6%)が上位を占める中、「収益に対するフィーの割合の増加」は18.8%と低位にあるほか、「評価・報酬制度の整備」も3.1%と最下位に近い。多くの社長は「良い顧客を良い人材で増やしたい」との攻めの姿勢が強い一方、手数料体系や報酬制度等の見直しを行う意欲はあまり高くない様子がうかがえる。売買手数料よりも残高手数料の方が顧客本位であると決めつけるつもりはないが、仕組債にしろ、外貨建て一時払い保険にしろ、適合性を軽視する回転売買が当局に問題視され、手数料体系や評価・報酬制度のあり方が問われている中、IFA法人の経営者としては、それらについて、より課題認識を高める必要があるのではないかと思う。
2020年1月、「IFAが真に顧客の立場に立ちアドバイスを行うための支援と普及活動を進める」ことを目的として、一般社団法人ファイナンシャル・アドバイザー協会が設立された。同協会の倫理綱領では、合理的かつ明確な手数料体系として「顧客からアドバイスの対価を得る手数料体系や顧客の長期的利益に資する手数料体系、例えばフィーベース等の拡大を目指す」ことなどがうたわれている。顧客本位のあるべき姿を彼らなりに具体的に示した点は高く評価できる。現時点で、同協会におけるIFAの会員数は30社程度と少なく、活動内容も勉強会レベルに留まっているようだが、今後、情報発信を強化しながら仲間を増やし、IFA業界をリードする存在となることを願っている。