日証協会長がNISA口座数の伸び悩みに言及
昨年12月20日に金融庁が公表した「NISA口座の利用状況調査」によると、9月末時点のNISA口座数は2508万口座と6月末から3.4%(約83万口座)増えた。2024年の1~3月に186万口座増とロケットスタートした後、4~6月で102万口座増とペースダウン、7~9月で更に鈍化したのは8月に市場が一時的に急落したことが影響しているほか、NISA口座を持ちたいと考えていた層の開設割合が相応に高まってきたからではないかと見ている。
口座数を年代別にみると、40代が482万口座と最も多く、50代の481万口座と合わせて全体の4割を占めているが、伸び率では20代が最も高く(4.7%増、287万口座)、新NISAが資産形成層の投資意欲を高めていることが窺われる。
商品の買付額は1~9月で13.8兆円に達した。こちらも1~3月で6.2兆円、4~6月で4.0兆円、7~9月で3.6兆円と次第に減少している。内訳をみると、成長投資枠が各四半期で5.1兆円、2.8兆円、2.3兆円とペースダウンしているのに対し、つみたて投資枠は1.1兆円、1.2兆円、1.3兆円と右肩上がりで増えている。基本的に手元資金を運用する成長投資枠では、年初に枠一杯まで投資を行う投資家や市場動向を見ながら投資タイミングを計る投資家が多く、どうしても買付額の変動幅が大きくなる。一方、主に資産形成ツールとして利用されるつみたて投資枠では、投資家は定額をこつこつと積み立てており、市場動向を見ながら当初設定した積立方法を変更するケースはまれだ。昨年8月の相場急落時も、つみたて投資を取り止めた顧客は少なかったと聞く。よって、口座数増に比例して買付額も増えていくことになる。運用会社や販売会社は、つみたて投資を地道に行う顧客を増やしていくことが経営の安定化にも繋がることを改めて認識すべきであろう。
商品別に買付額を見ると、昨年9月末時点で、投資信託が約8.8兆円と全体の64%を占め、上場株式(約4.6兆円。全体の33%)を凌駕する。買付額(13.8兆円)を口座数(2508万口座)で割った1口座当たりの買付額は約55万円となっている。年齢別の1口座当たりの買付額は60代が約68万円と最も多く、50代(60.8万円)、70代(60.7万円)、40代(約58万円)と続く。また、成長投資枠とつみたて投資枠ごとの買付額が年齢別に公表されており、高年齢ほど成長投資枠の買付割合が高い状況にある(逆に見れば、つみたて投資枠の買付割合は低年齢ほど高い)。例えば、60代では成長投資枠の買付割合は83%となっているのだが、意外にも20代でも成長投資枠の買付割合が55%となっている。20代ではつみたて投資枠の利用が圧倒的に多いと思っていたのだが、若者層の中にも、既に運用資産用の資金をしっかりと蓄えている方々が少なからずいるということか。自分の過去を反省する今日この頃だ。なお、注意点として、各年代とも両方の枠を使っている投資家や成長投資枠で積立型の投資を行っている投資家がいることは申し添えておきたい。
当該調査結果を踏まえ、日証協の森田会長は今年1月15日の会見で「(2508万口座数は)成人の4人に1人と、なかなかの数。新規開設は直近やや伸び悩んで今は踊り場にあるが、まだ利用していない人に向け、金融経済教育の普及と合わせて取り組みたい」と述べている。確かに今後は、「投資は必要ない」あるいは「損が怖い」と思っている投資に無関心な層に対し、資産形成の必要性を感じ、行動してもらうことが必要だろう。
J-FLEC「認定アドバイザー検索」のプロフィール情報が物足りない
一方、対面の金融機関等からは、個社として取り組むには新規の顧客獲得コストが高くなってきており、併せて業界や政府という組織での取り組みを強化して欲しいとの声が聞こえてくる。そこで、金融経済教育推進機構(J-FLEC)の出番となるのだが、先日、同機構は彼らが認定するアドバイザーが今年1月7日時点で1,144名になったと公表した。
都道府県別で見ると、高知(認定者なし)以外は少なくとも2名以上が認定されているが、関東ブロック(1都7県。529名)と近畿ブロック(2府4県。183名)で全体の62%を占めており、現時点では、全国に均等に分布している状況ではない。また、年代としては60代以上で559名と約半分を占めており、全体の9割が少なくともCFP、AFP、FP1~2級のいずれかの資格を保有している。出自については、J-FLECのホームページにある「認定アドバイザー検索」を使って、ざっと業務経験を調べてみたところ、銀行や証券会社などでリスク性金融商品販売に従事してきた現役引退組が多いようだ。
この「認定アドバイザー検索」では、氏名に加え、顔写真や基本情報(年代、保有資格、所属、住所、業務経験、ホームページなど)、相談内容(相談料の目安、相談対応時間、相談方法、相談対応エリア)、問い合わせ方法などを掲載するフォームとなっているのだが、中には、名前と年代だけしか掲載されていないアドバイザーも散見されており(特に地方の県にこうした事例が多い)、正直、このツールだけで各顧客のニーズに適した認定アドバイザーを探すのは難しく、今後、掲載情報の充実が求められるところだ。
なお、J-FLECでは、別途、学校や職場などに講師を派遣し、年間1万回、75万人を対象に金融経済教育を提供するという高い目標を掲げている。1月21日付の読売新聞の記事によると、昨年8月からの無料講師派遣の受付後、2か月間で600件以上の申し込みがあったとの事だが、年間1万件を達成するにはかなりペースを上げる必要がありそうだ。
J-FLECは昨年8月に本格稼働を始めたばかりであり、色々な課題があることは仕方のないことなのかもしれない。一方、投資無関心層の開拓に加え、既にNISA口座にて粛々と資産運用や資産形成を続け、相応の資産残高となってきた顧客に対しても、例えば、米国株式など特定分野への投資に偏り過ぎていないか、より分散の効いた安定的なポートフォリオへシフトすべきではないか等といったアドバイスを提供するタイミングに来ているように思う。J-FLECの活動強化とともに、個々の金融機関の販売員やIFAが、中立・公正なアドバイスを提供できる環境作りを政府・当局は更に進める必要があるように思う。