財研ナオコ氏 石破政権の発足後、しばらく金融庁まわりは比較的静かだったけど、ここに来ていろいろ動き出しているみたいだね。
本石次郎氏 今のところ業界側であまり注目されていませんが、銀行・証券・保険会社など業種の垣根を越えて利用者の資産データを集約する仕組みが整いそうです。
財研ナオコ氏 自民党デジタル社会推進本部が5月20日に政府へ渡した提言で、「非銀行分野におけるAPI連携の推進」が盛り込まれたからね。
かやば太郎氏 「API連携」??? すみません、横文字が苦手なもので、かみ砕いて説明してくれますか?
本石氏 金融機関が保有している顧客のデータは当然、それなりに厳格に管理されています。でも完全に外部と遮断されていると、他の事業者と連携したサービスを展開することができません。そこで、スマホのアプリなどに接続する際に使う、「データの通り道」を用意しています。その「通り道」にあたるAPIの仕様を公表することを、「オープンAPI」と言います。
かやば氏 何となく分かりました。その「オープンAPI」の動きは、金融ではどれくらい広がっているんですか。
財研氏 銀行については2017年の銀行法改正でオープンAPIが努力義務化された。一方で保険界や証券界ではあまり進んでいないね。
本石氏 今回の自民党の提言内容は、政府の「システム利活用制度・システム検討会」の議論とリンクしています。2月の会合では、オープンAPIの推進が議題に上っただけでなく、事務局側がマイナポータルなど政府提供サービスとの連携も選択肢に挙げていました。
財研氏 データ連携にマイナンバーを絡める案については、事業者間で評価が割れている。確かに繁雑なシステム整備を一気に進められるかもしれないけど、「マイナンバーが絡むと炎上しやすく、結局は議論が先送りされるのでは…」(大手フィンテック幹部)と心配する声も聞こえるよ。
本石氏 データ連携の目的の一つは、金融機関の利用者が銀行や保険会社など各所に散らばっている資産情報を一元的に把握することで、国民が将来のライフプランを策定しやすい環境を整えることにあります。ただ、データ連携が進むと情報の非対称性が一気に解消され、ビジネス環境を一変させるかもしれませんね。
財研氏 そもそもAPI連携は各業界内で反発が大きいのも事実だ。各社が保有しているデータは付加価値の源泉であり、これをタダ同然で他社に渡すことには当然、抵抗があるだろう。
かやば氏 でも、見方を変えれば、利用者が自身で把握した資産状況について情報を共有してくれるくらいの信頼関係を築ければ、既存の金融機関にとって全くうまみのない話でもないんじゃないでしょうか。
財研氏 そういえば政府の検討会では、データを一元的に集約してアドバイスに生かせるよう、投資助言業の簡易的な新枠を作ることを一部委員が提案していた。
本石氏 金融庁の宿題は他の科目でも積み上がってきています。大手グループの運用高度化の取り組みについて横断的なモニタリングを実施し、6月にもその結果を公表する予定です。
かやば氏 各大手グループはすでに、運用力の高度化に向けた取り組み内容を報告し、金融庁側が一覧化して公表しています。その中には、国産AI分野への出資など、政府方針と親和性の高い記載も見受けられますね。
財研氏 金融庁は岸田政権下で「成長と分配」のインベストメント・チェーンの青写真を描く中で、「誰がリスクマネーを供給するか」に力点を置く一方、「誰がリスクマネーの受け手となるか」については具体的な情報発信を避けていた。石破政権で風向きが変わり、政府が特定の戦略分野へ資金供給を集中させていることに対し、今のところ否定的な声はほとんどない。金融庁の新たなレポートで、どのようなバランスの書きぶりになるのかも注目だ。