9年前のレポートで毎月分配型を徹底批判
4月23日に、岸田文雄前首相が会長をつとめる資産運用立国議員連盟が公表した「資産運用立国2.0に向けた提言」がメディアやSNSを賑わせている。提言内容は「家計の安定的な資産形成」に関わるもののほか、「中小企業等の成長に資する金融サービスの充実と多様な資産運用商品の提供」や「企業価値の向上・コーポレートガバナンス」、「資産運用業・アセットオーナーシップの更なる高度化」に関するものなど、極めて多岐にわたっている。
読者の皆様の注目は、「高齢者が物価上昇の下でも、投資のメリットを受けつつ、生涯にわたって計画的に運用資産を活用して生活に充てることができるよう、高齢者に限定して対象商品の拡大・スイッチング解禁を図る『プラチナNISA』の導入など、政府は退職世代向けの資産運用サービスの充実に取り組むべきである。」という記述だろう。ここでいう「高齢者限定商品」は毎月分配型投信であると各メディアが指摘している。
これまで金融庁は毎月分配型投信について、長期投資に向かないことを金融レポート等で注意喚起してきた。特に平成28事務年度の金融レポートの指摘は鋭い。
まず、「複利効果が働きにくく、元本を取り崩しながら分配される場合には運用原資が大きく目減りして、運用効率を下げてしまう」ことを問題視したうえで、投信協会が実施した顧客アンケート結果から、毎月分配型投資信託を保有する顧客のうち、「分配金として元本の一部が払い戻されることもあることや支払われた額だけ基準価額が下がることを認識していない割合が約5割にも上っている」として、「毎月分配型投資信託の商品特性について、販売会社が顧客に十分情報提供した上で、顧客が商品選択しているのかについては疑問が残る」と指摘している。
さらに、「毎月分配型投資信託については、分配金を月々の生活資金に充てたいといった高齢者を中心とする顧客ニーズがあるとの見方もある」と理解を示しつつ、「顧客アンケートでは、受け取った分配金を何に使いたいかとの質問に対して、分配金を『特に使わない』、『同じ投資信託を購入する』等の回答が相当数見られていることから、顧客ニーズを十分に確認せずに販売が行われている可能性がある」と手厳しい。最後に、米国における毎月分配型投信の状況に触れ、「米国においては、投資信託全体に占める毎月分配型の割合が残高ベースで20~30%で推移する中、毎月分配型投資信託の多くは債券に投資し、利子の範囲内で分配するものが多い」として、タコ配に頼った高配当をうたう毎月分配型投信が目立つ我が国の現状をあらためて憂えていた。
新NISA口座数の伸び悩み、60代以上の低調も背景に
一方、政府が退職世代向けの資産運用サービスの充実に取り組むべきと主張する理由は明確だ。各民間の調査によると、おおむね、60歳代以上のNISA口座開設は1~2割程度に留まっており、3割に近い30歳代~50歳代よりも利用率が低い。金融庁が4月3日に開催した「NISAに関する有識者会議」の事務局説明資料でも、現役層に比べ、60歳代以上のNISA口座開設数の伸びが低いことが示されている。NISA口座数は2024年に436万口座増えて2,560万口座に達し、成人の4人に一人が口座を保有するに至っているが、足元で開設数の伸びは鈍化しており、2027年までに3,400万口座という政府目標を達成するには、高齢者のNISA利用率アップが欠かせない。もちろん、数値目標達成が主目的ではない。政府は、日本の金融資産の6割超を主に預貯金で保有する60歳以上の世代がNISA制度を活用することによって、家計の資金が成長投資に向かい、企業価値向上の恩恵が家計に還元されることで、さらなる投資や消費に繋がる、「成長と分配の好循環」を実現することを目指しているのだ。
こうした中、SNSでは、「(余裕資金の乏しい)年金暮らしの高齢者にリスクを取らせるな」、「長期保有が難しい高齢者に投資させるな」といった怒りの声が飛び交っている。また、対象商品として毎月分配型投資信託を検討しているとの報道に対し、「長期投資を促すNISA制度の趣旨から逸脱している」とか、「どうせ金融機関の手数料稼ぎが目的だろう」などといった声が聞こえる。
金融庁はこれまで安定的な資産形成・資産運用の観点より、毎月分配型投信のほか、テーマ型投信やファンドラップ、外貨建て一時払い保険、仕組債、仕組預金といった商品に厳しい目を向けてきたが、それぞれの商品の有用性は認めたうえで、顧客適合性の確認や商品説明といった販売姿勢を問題視してきたと筆者は認識している。基本的に商品自体に罪はなく、業者本位と言われても仕方のない売り方が問題なのだ。資産取り崩しニーズのある高齢者の資産寿命を延ばすうえで、毎月分配型投信は有用であることは間違いない。極度なタコ配やサービス内容に見合わない高い手数料の商品を排除し、リーズナブルな手数料で安定的な分配金を目指す毎月分配型投信に限定すればよい。なお、趣旨からして、当然ながら分配金の再投資はできないようにすべきだと思う。
ちなみに、先日、資産運用立国議員連盟メンバーである若手議員と面談する機会があった。彼によると、同議連はこれからも幅広に提言を行っていくとのことだ。そうであるならば、米国のRIAの活躍を踏まえ、我が国でもライフプランニング(ゴールベースアプローチ)に基づき具体的な投資提案を行うIFAなどの金融アドバイザーの拡充策もぜひ盛り込んでほしいと思っている。J-FLECの認定アドバイザーではラストワンマイルを埋められない。もちろん、「顧客本位の業者」であることが前提であり、並行して業者本位の輩を排除する仕組みづくりが欠かせないが、トランプ政権誕生で市場の不確実性が増す中、アドバイスニーズは高まっており、官民挙げて良質なアドバイザーの拡充を図るべき時だと心から思っている。