finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート
永田町・霞が関ウォッチャーのひとり言

【文月つむぎ】投信だけでなく保険販売でもFDを徹底できるか?知っておきたい「保険業法」改正のポイント

文月つむぎ
文月つむぎ
2025.06.10
会員限定
【文月つむぎ】投信だけでなく保険販売でもFDを徹底できるか?知っておきたい「保険業法」改正のポイント

 

損保会社から代理店への出向はアウトかセーフか

5月30日、国会において金融庁が提出していた「保険業法の一部を改正する法律案」が成立した。本法案は、2023年以降に発覚した保険金不正請求事案(ビッグモーター事件など)と保険料調整行為事案(仙台空港や東急等との共同保険など)の再発防止を図るため、顧客本位の業務運営を徹底し健全な競争環境を実現する観点から、大規模乗合の損害保険代理店及び保険会社等に対する体制整備を強化するとともに、保険契約の締結等に関する禁止行為について、対象となる行為等の範囲を拡大するというものである。

 

具体的には、まず、保険金不正請求事案を踏まえ、損害保険代理店のうち、複数の保険会社の商品を扱う(乗合)形態であって規模が大きい代理店(特定大規模乗合損害保険代理店)に対して、例えば自動車修理業などを兼業している場合に、保険金の支払に不当な影響を及ぼさないよう、兼業業務を適切に監視するための体制整備を義務化する。そのほか、営業所ごとに法令等遵守責任者を、また、本店等にその統括責任者を設置すること、苦情の適切かつ迅速な処理のために必要な体制整備を行うことを義務化した。

 

さらに、保険料調整行為事案関連を踏まえ、現行、保険会社や保険募集人が、保険契約者又は被保険者に対して、保険料の割引、割戻しその他特別の利益の提供を行うことを禁止していることに加え、保険契約者又は被保険者と密接な関係を有する者に対して、 取引上の社会通念に照らし相当であると認められない物品の購入や役務の提供といった便宜を供与することを禁止することとしている。

 

筆者は、法案成立に先立ち、参議院の財政金融委員会における法案審議の模様を聴いていた。通常、不祥事を踏まえた制度改正においては、野党を中心に厳格な対応を図るよう政府・当局に求めるパターンが多いところ、与野党問わず、(特に中小の)損保代理店の負担が大きくならないように業界を監督・指導すべきといった要請が相次いだ。本法案は、大規模乗合代理店を対象としているが、今のところ「大規模」という概念が不明確で、それなりの数の中小代理店が対応を迫られるのではないかと懸念しての要求であった。

 

例えば、金融庁が損保代理店に比較推奨販売を求めていることについて、自動車保険や火災保険などでは各損保会社の商品内容に大差がない中、比較推奨販売を行う必要性がどこまであるのかといった意見や、損保会社から代理店への出向者が契約者の個人情報を損保会社に漏洩していた事案を踏まえ、代理店から出向者を一斉に引き揚げる損保会社が現れる中、出向者が損保代理店の円滑な業務遂行に貢献しているケースもあるので、損保会社が極端な対応をとらないよう金融庁が監督・指導すべきといった意見が聞かれた。それらに対し、金融庁幹部は、各社が顧客本位の業務運営を遂行することを期待しているところであるが、比較推奨販売や出向者抑制を厳格に求めているものではない旨を説明している。

 

日本損害保険協会の公表データによると、2023年度末時点で、損保代理店は約15万、募集従事者数は約180万人存在する。一つの代理店あたりの募集従事者は、単純平均で12名程度となっており、我が国では中小規模の代理店が多いことがわかる。こうした中小代理店にとっては、大手損保会社からの経験豊富な出向者は業務上の重要な人材となっているものと思われ、出向者をすべて引き上げるというのは混乱を招く可能性がある。

 

したがって、引き続き、ある程度の出向は許容すべきかと思う。ただし、一連の不祥事案を踏まえ、日本損害保険協会が2024年9月に策定した「損害保険会社からの出向者派遣に係るガイドライン」に沿って、出向元の利益を優先し、情報漏洩や自社の商品を優先した営業を行うことがないように損保会社側と代理店側がそれぞれガバナンス強化を図ることが前提である。

 

一方、比較推奨販売については、保険内容や手数料は似たり寄ったりかもしれないが、保険適用事例が発生した際の対応の良し悪しなどの情報を各代理店は蓄積しているものと思われる。どの保険募集人においても、こうした顧客が把握しにくい情報を整理し、顧客ニーズに応じて比較説明することが求められるのではないだろうか。また、もし、特定の社の商品だけを扱っているというのであれば、何故、多くの保険会社がある中でその社の商品だけを扱っているのか、顧客に丁寧に説明すべきであろう。

 

証券口座、スルガ、いわき… 永田町からの追及やまず

ちなみに、通常国会の終盤にきて、頻繁に衆議院の財務金融委員会や参議院の財政金融委員会が開催され、省庁提出法案の審議に加え、色々な不祥事案に係る質疑が行われている。例えば、4月以降、野党を中心に証券口座の乗っ取り事案が取り上げられ、各証券会社や日証協、金融庁の対応の適切性に係る質疑が行われてきた。5月に入り、多要素認証の導入や被害補償の方向性が見えてくると本事案に関する質疑は下火になったのだが、別途、一部野党がスルガ銀行のアパート・マンション向け不正融資が発覚から7年経っても融資先との間で解決を見ていないことに関し、金融庁の監督・指導姿勢を厳しく質していた。

 

こうした中、2012年に公的資金を注入したいわき信用組合が20年以上にわたり迂回融資など不正行為を繰り返していたことが明るみになると、各党が一斉に金融庁の監督責任を問う事態となっている。なるほど、不正の巣窟とも言うべきいわき信用組合が、何故、20年以上にわたって不正行為を隠し通せたのか、筆者も知りたいところだ。上述の保険事案も含め、永田町では、当局のモニタリング強化を問う声が高まってきている。

 

 
続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
1

関連キーワード

  • #金融庁
  • #フィデューシャリー・デューティー
  • #保険
前の記事
【文月つむぎ】「プラチナNISA」という言葉がない!自民党金融調査会の最新提言を読み解く
2025.06.04

この連載の記事一覧

永田町・霞が関ウォッチャーのひとり言

【文月つむぎ】投信だけでなく保険販売でもFDを徹底できるか?知っておきたい「保険業法」改正のポイント

2025.06.10

【文月つむぎ】「プラチナNISA」という言葉がない!自民党金融調査会の最新提言を読み解く

2025.06.04

【文月つむぎ】毎月分配型のアウト/セーフは?当局に問われる「線引き力」

2025.05.07

【文月つむぎ】私が相場の先行きを悲観しない究極の理由

2025.04.16

【文月つむぎ】「NISAは現役世代向け」という誤解 シニア層への普及を急ぐべき政治的背景とは

2025.03.11

【文月つむぎ】日証協の「新NISA1年調査」を精読する ゴールベースアプローチの意識が低い?

2025.02.18

【文月つむぎ】「老後2000万円問題」から6年、いまだに資産運用より節約術のほうがウケる世相を憂う

2025.02.10

【文月つむぎ】J-FLEC認定アドバイザーが1000人超に 親しみやすさと使い勝手の向上を急げ

2025.01.29

【文月つむぎ】「NISA限定の投資助言免許を」 金融庁アドバイス報告書に透ける思惑

2025.01.08

「ふてほど」金融不祥事は「もうええでしょう」… 性悪説に立ってモニタリング高度化を

2024.12.19

おすすめの記事

投信ビジネスに携わる金融のプロに聞く!「自分が買いたい」ファンド【アクティブファンド編】

Ma-Do編集部

野村證券の売れ筋で浮上した米国株ファンドとは? リスク分散型の「のむラップ・ファンド」の人気も高まる

finasee Pro 編集部

【文月つむぎ】投信だけでなく保険販売でもFDを徹底できるか?知っておきたい「保険業法」改正のポイント

文月つむぎ

ブル・ベア型ファンドの人気に衰え、マネックス証券でオーソドックスなファンドへの資金流入が続く訳は?

finasee Pro 編集部

「自立と連携」を掲げて試行錯誤を重ね、確立された「銀証連携」モデルが新時代を拓く case of しずおかフィナンシャルグループ

Ma-Do編集部

著者情報

文月つむぎ
ふづきつむぎ
民官双方の立場より、長らく資産運用業界をウォッチ。現在、これまでの人脈・経験を生かし、個人の安定的な資産形成に向けた政府・当局や金融機関の取組みについて幅広く情報を収集・分析、コラム執筆などを通し、意見を具申。
続きを読む
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
投信ビジネスに携わる金融のプロに聞く!「自分が買いたい」ファンド【アクティブファンド編】
野村證券の売れ筋で浮上した米国株ファンドとは? リスク分散型の「のむラップ・ファンド」の人気も高まる
【文月つむぎ】投信だけでなく保険販売でもFDを徹底できるか?知っておきたい「保険業法」改正のポイント
「自立と連携」を掲げて試行錯誤を重ね、確立された「銀証連携」モデルが新時代を拓く case of しずおかフィナンシャルグループ
浪川攻の一刀両断
手数料自由化とファンドラップから見る日本と米国の証券リテール改革の相違
SBI証券でインベスコ「世界のベスト」を評価、反対に人気が離散したファンドとは?
いわき信組の不正を見抜けなかった金融庁、「根本的な人員不足」も背景
【文月つむぎ】「プラチナNISA」という言葉がない!自民党金融調査会の最新提言を読み解く
「支店長! ゴールベースアプローチをすれば、お客さま本位の提案になるということでよいですか?」
【みさき透】視界不良の「プラチナNISA」、意外に響くネットの評判 
「自立と連携」を掲げて試行錯誤を重ね、確立された「銀証連携」モデルが新時代を拓く case of しずおかフィナンシャルグループ
【文月つむぎ】「プラチナNISA」という言葉がない!自民党金融調査会の最新提言を読み解く
浪川攻の一刀両断
手数料自由化とファンドラップから見る日本と米国の証券リテール改革の相違
【文月つむぎ】投信だけでなく保険販売でもFDを徹底できるか?知っておきたい「保険業法」改正のポイント
いわき信組の不正を見抜けなかった金融庁、「根本的な人員不足」も背景
SBI証券でインベスコ「世界のベスト」を評価、反対に人気が離散したファンドとは?
「支店長! ゴールベースアプローチをすれば、お客さま本位の提案になるということでよいですか?」
楽天証券の売れ筋でキラリと光るパフォーマンスを出したファンドとは? 「全米」と「SCHD」には厳しい結果
今月スタートした「投資運用関係業務受託業」を金融庁が激推し!金融機関に勤める中堅・若手の有望な移籍先に?
トランプ関税の混乱を横目に「戦略的自律」をめざす欧州企業に可能性、「テンバガー・ハンター・ヨーロッパ」の視点とは?
「支店長! ゴールベースアプローチをすれば、お客さま本位の提案になるということでよいですか?」
今月スタートした「投資運用関係業務受託業」を金融庁が激推し!金融機関に勤める中堅・若手の有望な移籍先に?
「自立と連携」を掲げて試行錯誤を重ね、確立された「銀証連携」モデルが新時代を拓く case of しずおかフィナンシャルグループ
【文月つむぎ】「プラチナNISA」という言葉がない!自民党金融調査会の最新提言を読み解く
プラチナNISAだけじゃない!「立国議連」提言書で見逃せない注目ポイント3選
野村證券の売れ筋で「国内株」の人気は浮上、「S&P500」が急落する中で踏みとどまったファンドとは?
浪川攻の一刀両断
手数料自由化とファンドラップから見る日本と米国の証券リテール改革の相違
トランプ関税の混乱を横目に「戦略的自律」をめざす欧州企業に可能性、「テンバガー・ハンター・ヨーロッパ」の視点とは?
【みさき透】視界不良の「プラチナNISA」、意外に響くネットの評判 
【文月つむぎ】投信だけでなく保険販売でもFDを徹底できるか?知っておきたい「保険業法」改正のポイント
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2025 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら