合併時の違約金が資金交付対象に
報告書案の目玉は、現行法では来年3月に申請期限となっている「資金交付制度」「資本参加制度」の延長・拡充です。
資金交付制度に関しては、交付の対象となる行為に、合併・経営統合に伴ってシステム会社に支払う解約違約金を加える方向を提示。資本参加制度については、資金注入先であるいわき信用組合での不祥事などを念頭に、延長・拡充の前提として、金融機能強化審査会のチェック機能や金融庁によるモニタリングの強化を打ち出しています。
報告書案はこれまで3回開かれたWGの議論を整理した内容――のはずですが、WG立ち上げ後に新政権が発足したこともあり、必ずしもこれまでの議論の本筋としては取り扱っていないものの、高市政権が掲げる成長戦略と親和性が見受けられるテーマも複数盛り込まれています。
副業・兼業の規定整備にプレッシャー?
ここでは、報告書案の段階で「突然」飛び出してきたように見える注目点を3点、取り上げます。
(1)ベンチャーデットによる成長企業の後押し
スタートアップなど成長企業へのエクイティ支援だけでなく、報告書案では一定の規模に達した企業について、新株予約権付融資などベンチャーデットの適切な供給が重要と指摘。貸出規律への影響に配慮しつつ、「金融庁において、ベンチャーデットを含む融資類型について、金融検査・監督の具体的な考え方を検討していく」としています。
(2)「ローカルゼブラ企業」へのインパクト投資促進
報告書案は地域の課題解決に取り組む企業(ローカルゼブラ企業)について、インパクト投資を活用して成長を支援する方向性を示しました。
インパクト投資は、課題解決と収益確保を両立する投資行動を意味し、ESG投資と同様に「サステナブル投資」という大きなくくりの一部と整理されます。スタートアップ支援策との親和性の高さもあって、最近はESG投資よりもインパクト投資の方が、政策の大義として持ち出される機会が増えているところです。
(3)生成AI導入と兼業・副業の促進
また、地域金融機関における生成AIの導入については、リスクが比較的少ない社内業務の効率化だけでなく、「顧客向けサービス等のこれまで利活用されていないユースケースを新たに創出することや、その利活用のリスク低減方法等のプロセスを共有すること」によって業務効率化を後押しする方向性を示しました。
また、多様な働き方を希望する職員のニーズに応えるため、兼業・副業の選択肢を提供することの有効性を強調。制度導入は「着実に進展している」と評価しつつ、「規程が整備されていない金融機関も一定程度見られる」とし、今後、「アンケートやヒアリング等」を進めた上で、事務年度末をめどに結果を公表する姿勢を示しています。規程を整備していない金融機関に対するプレッシャーを高める考えが読み取れる書きぶりになっています。
この他、金融機関どうしの店舗・ATM共同化の動きを踏まえた過疎地のサービス維持に向けた検討、農林水産分野における課題解決に向けた農林水産省などとの連携についても盛り込みました。
オブザーバーとして参加した地銀協代表(横浜銀行)は、「投資専門子会社の株式会社以外への資金供給の可能化については、報告書案でも規制緩和をする方向で記載していただいた。地方銀行としてもこうした規制緩和も活用しながら、引き続きリスクマネーの供給に尽力してまいりたい」と説明。資金交付制度・資本参加制度の延長・拡充に関しては「制度の利用については個別行の経営判断になる」としつつ、「より使い勝手の良い制度となることで、地方銀行においても経営の選択肢が増えることにつながるものと認識している」と述べました。
金融審は近く報告書の最終版を策定し、政府はこれを踏まえて年末までに、「地域金融力強化プラン」を策定する予定。このプランは、来年夏に政府全体として策定を予定している、日本の経済成長に向けた新たなプランの一部という位置づけになる見込みです。
