佳作:「新人証券マンの熱意と決意」
人は何をもって投資をするのか。
私は新人証券マンである。株式、投資信託、金利、NISA、ドルコスト平均法、インフレなど、さまざまな知識を叩き込まれた。そして「長期・分散・積立」をインコのようにつぶやき続け、飛び回った。しかし、誰も小鳥のさえずりなど聞いてはくれない。習った正しい知識なのに、皆さんのためになるような情報なのに。なぜ話を聞いてくれないのだろう、人は正しさでは投資しないのだろうか。
「人柄が大事だよ」、先輩が言った。私は笑顔いっぱいに元気に話した。「皆さんの力になりたいんです」と力説した。そうすると、前よりは話を聞いてくれる人が増えた。しかしお客さまの答えはだいたい同じだった。「まあ、だいじょうぶ」。大丈夫なの?「まあ」とは、どういうことだろう。
なぜ投資をしないのだろう、と心の中でお客さまに疑問を投げかける。しかし、そういう私自身も積立を始めた際、月2万円の固定費の増加に恐れおののき、すぐに停止していた。まずは自分がやめた理由を考えるのが筋だろう。
第一に、お金は貯めるより使う方が楽しい。未来の自分のために貯めることが大事だと心の中で思っていても、日々を生きることは大変だ。趣味やご飯、習い事に使わずにいられようか。今を頑張って生きているのだから、未来の私もそのくらいなんとかしてくれよ、というのが本音である。
第二に、自分のライフスタイルに対して、積立額が多かった。引き落とし日の口座残高を見て、危機を感じた。そういえば、積立する銘柄と金額はなんとなく決めていた。流行っていた人気の商品を、1つでは味気ないから2つ、きりよく1万円ずつ行こう。そんな調子だった。振り返れば、とりあえず1銘柄5000円の積立だったら今でも続いていたかもしれない。
この体験談は証券マンとしては恥ずかしい過去だが、20代での積立失敗談は熟練の先輩方にはあまりない経験だろう。
私には偉そうなことを言える知識も、堅実に生きてきた人生もない。だからこそ、分かることがある。「今を楽しみたい」という生の気持ちに寄り添える、同じ目線に立てる。
私たちは、正しいことを知っていても動けない時がある。
「勉強しなさい」と言われてもあまり勉強しなかった学生だったし、今でも「お金を貯めなさい」と言われても、日々消費ばかりしている。
一歩を踏み出しても、力加減を誤って空振りすることもある。
ただその中で、未来の自分に少しだけおこづかい、あげてみませんか。
講評:顧客目線に立った等身大の思いが共感を呼ぶ
正しい情報だけでは人は行動しないという認識から、共感や自己開示を軸に顧客アプローチに奮闘する様子が読み手の心に響く。失敗経験を活かす視点から、誠実な人柄がうかがえる。顧客との関係構築において、同じ悩みを持つ存在として語りかけることが信頼につながるという姿勢から実直な思いが伝わってくる。
