佳作:出口戦略の大切さ
私が顧客との関わりを通じた学びとして、取り上げたい最大のテーマは「出口戦略の大切さ」である。
資産形成層の顧客はおおかた、自分より年齢が高く、社会経験も豊富である。しかし、投資経験については一概には言えず、運用初心者のお客さまにいかにマーケットインしていただくか、経験者の方にどう自社商品を選択していただくか、この文章をお読みのみなさまも常に考えていらっしゃるかと思う。
「インフレが起こっている中で、お客さまの資産価値を守るためには、資産を育てていくことが大切なんです」
若い自分がいくらこのように訴えたところで、お客さまご自身の豊富な経験において、それを良しとする判断材料がなければ運用を始めていただくことはできない。経験者の方であれば金融機関と商品の選択に理由が求められ、それもまたお客さま自身の経験に立脚するところが大きい。そこで私は、さまざまな「例えば」の話でお客さまとお話をしていくのだが、投資経験や属性に関わらず、比較的共通して聞き入ってもらえるのが出口戦略のお話である。
ある投資経験者のお客さまは、リスク許容度の高いポートフォリオを複数の投資信託で組み立てていらしたが、まとまった資金で一括での投資を考えるにあたり、これまでのポートフォリオで運用を続けていくことに不安を覚えられたようだった。別のお手続きでご来店いただいた際に少しお話しする程度の機会だったため、私は契約には至らないだろうなと思いつつも、ファンドラップの提案書をお示しした。内容を説明するにつれてお客さまの人生設計が見えてくる。運用に対しては既に抵抗がないお客さまだったため、私は「使っていくことを考えた時に」という言葉を連発してしまっていたように思い出される。
少し反省していたが、しばらくしてお客さまから電話が入った。解約時の税金の計算方法についてだった。その後またしばらくして、今度は今日契約をしに行きたい、という電話が入った。
正直に言って、驚いた。契約を決めていただくまでに直接お会いしたのは一度きりで、本音を言えば検討していただく前にもう少し説明を、と思っていたところだった。そのためお客さまご自身で契約まで判断していただいたことは驚きだった。
契約内容を調整する過程で、育てた資産の使い道や運用内容の見直し時期について、お客さまからお話が出た。
「まず目標を決められるのが良いですよね。この先、使いたい時のことも考えられますし」――提案した商品を選んでいただいた理由だった。だから解約時の税金計算の質問があったのかと腑に落ちた。
初心者の方にも、NISAのつみたて投資枠への積立はいつでも止められるし、解約することもできるとお伝えすると、安堵していただける。ご自身の判断で納得のいく出口を判断するためにも中長期投資を、とマーケットに留まっていただく必要性についてもお話ができる。出口戦略についてお話することで、販売側の「営業トーク」ではなく、お客さま自身の資産形成についてお話をしていると受け止めていただける。私の経験から得た、ひとつの学びである。
講評:出口戦略を軸にした顧客対応の実践に学び
顧客とのエピソードを通じて、出口戦略が意思決定に与える影響を明確に提示している。顧客視点に立った説明は安心感を与え、商品選択の理由や運用後の使い道、目標設定や税制面にも実践的に踏み込んで話し合えている点が参考になる。販売現場で役に立つ多くの示唆に富んでいる。
