finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート

「遵守か説明か」から「遵守か合併か」に――2026年の地銀政策はどこへ?金融審「地域金融力WG報告書案」を深読み

川辺 和将
川辺 和将
金融ジャーナリスト
2025.12.12
会員限定
「遵守か説明か」から「遵守か合併か」に――2026年の地銀政策はどこへ?金融審「地域金融力WG報告書案」を深読み

金融審議会の「地域金融力の強化に関するワーキンググループ」が取りまとめた報告書案。地銀や信金・信組に対し、融資だけでなく資本性資金の供給を含めた多方面の支援機能強化を促す記述とともに、再編の決断を後押しする資金交付制度を延長・拡充する方向性が盛り込まれました。「銀行法の制度趣旨の拡大」「遵守か合併か」という2つの視点から報告書案を深読みし、2026年以降の地域金融行政の行方を展望します。

「ビジネスの合理性超えアクセル踏む政策」と指摘も

報告書案では、企業の成長を後押しするファイナンス手法として、エクイティやメザニン融資、社債調達など「一般的な融資にとどまらない融資を、証券会社やファンド、政府系金融機関とも連携して提供していくことが必要」と指摘。地域の情報を持つ地銀など地域金融機関は「事業戦略やファイナンス手法に関する知見を高めつつ、企業価値の創造を総合的にサポートする能力を向上させることが重要」と記しています。

その上で、地域の課題解決に取り組む「ローカルゼブラ企業」への投資推進、M&A・事業承継・事業再生の支援、ベンチャーデット、DX支援といったテーマで地域金融機関に求められる対応や制度的な支援の枠組みを整理しています。

 

会合に出席した松井智予委員(東京大院法学政治学研究科教授)は、全体の方向性について異論はないと前置きしつつ、銀行法の趣旨を拡大させる場合には金融機関の安定性について更なる議論が必要だと指摘しました。

同氏は銀行法の趣旨について、「市場の健全性が国民生活の発展や安全の基盤となっていることを前提とし、その健全性を担保すること」にあり、その制度を整備することが金融庁の職責だと指摘し「制度の緩和や変化はあったが、現在も基本的には信用不安の波及を防ぐことが大きな課題だった」と整理しました。

その上で、「報告書では地域金融について、地域住民の利便性や、地方政策としての地方の『稼ぐ力』を掘り起こすことなどが大きな課題として取り上げられている。銀行の健全性というより、地域の活力のための措置も、銀行行政の大きな一部として書き込まれている」と説明。「地域金融については、伝統的に銀行法が目的としてきた信用や安定といった事項から、アジェンダを拡大して議論せざるを得ないというのが、今回の報告書の考え方なのだろう」と述べました。

加えて、「顧客企業の持続可能性を高めることがビジネスとして成立している場合に、企業が融資を行い、ウインウインで事業を行うことは当たり前の経済活動だが、人口減少が厳しい中、いずれそれを超えた施策を打つということも必要になる可能性がある。ビジネスとしての合理性を超えてアクセルを踏む政策も重要だが、地域金融機関の安定性維持との両立をどうするかということを議論していくことが重要になるだろう」と発言しました。

 

報告書案では、成長分野の資金供給の一手段であるベンチャーデットに関しては、貸出規律を歪めることのないよう金融庁の検査・監督の在り方を検討するといった記載がみられます。ただ、松井委員が指摘するように、安定性に関するより広範な議論を求める声も上がりそうです。

 

ランダムな詰め合わせにあらず

金融審議会が作成する報告書は往々にして、政官民からの要請の間で均衡を図るうちに論点が散漫になってしまい、全体としてのメッセージ性が曖昧になってしまうことが少なくありません。

今回の報告書案も、一見すると直近の政策動向のランダムな詰め合わせのようにも思えます。が、筆者の読みでは要するに、「報告書案に盛り込まれた事項を通じて『地域金融力』を十分に発揮することが困難な状況に置かれているのであれば、他行との統合を検討せよ」、というメッセージが、横ぐしとして全体を貫いていると考えられます。

 

金融庁は近年、いわゆる「プリンシプルベース行政」の文脈の中で、「コンプライ・オア・エクスプレイン(遵守か説明か)」の手法を取り、法的拘束力や罰則規定に依存せず金融事業者にさまざまな対応を促してきました。合併・統合のインセンティブを延長・強化し、システム違約金の支援によってそのハードルを引き下げる一方で、地域企業については融資にとどまらず多方面からの支援を要請している今回の報告書案は、「遵守か説明か」ならぬ「遵守か合併か」という二択を各事業者に迫っている……穿った解釈のようですが、こうした読み方をすると報告書案の終盤にある次の記載の意図が汲み取りやすくなるのではないでしょうか。

「地域金融機関は、その地域に根差して長年にわたって経営を行うことにより、地域についての圧倒的な情報を有し、地域社会・企業からの高い期待を持たれているが、こうした期待に十分に応えられない地域金融機関であれば、その信用は徐々に失われ、拠って立つ地域経済とともに衰退するおそれが否定できない」

「もちろん、各地域ではこれまでも地域金融機関による優れた取組が行われてきているが、将来的には、地域金融機関がこうした取組をその延長線上で継続するだけでなく、更に地域企業の価値向上に貢献し地域課題を解決していくため、これらに必要な取組は何かを考え、実行にチャレンジしていくことが求められる。そしてそのために経営基盤の強化を図る必要があれば、公的な支援制度も含め、取り得る様々な選択肢を吟味し、フォワードルッキングな対応をしていくべきだろう」

 

報告書案は近く正式確定され、政府がこれを踏まえて12月中に新たな「地域金融力強化プラン」を策定する見通し。年明け以降には報告書やプランの趣旨を踏まえ、プリンシプル・ルールの見直し、モニタリング体制の強化に向けた議論の行方に注目が集まりそうです。

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
1

関連キーワード

  • #金融庁

おすすめの記事

楽天証券の売れ筋で「日本株4.3倍ブル」が急伸、好成績の「世界のベスト」は順位を下げる

finasee Pro 編集部

政府内で「成長促進保証」創設案が浮上――金融機関のリスク負担割合は引き上げへ

川辺 和将

【金融風土記】各業態で「集約」進む福井県の金融動向

佐々木 城夛

「サイバー有事前夜」、誰が資産を守るのか――金融の利便性を支える責任と連携

文月つむぎ

【連載】藤原延介のアセマネインサイト㊲
NISA買付額は成長投資枠がけん引! ただし、年後半は毎月分配型の存在感高まる

藤原 延介

著者情報

川辺 和将
かわべ かずまさ
金融ジャーナリスト
金融ジャーナリスト、「霞が関文学」評論家。毎日新聞社に入社後、長野支局で警察、経済、政治取材を、東京本社政治部で首相官邸番を担当。金融専門誌の当局取材担当を経て2022年1月に独立し、主に金融業界の「顧客本位」定着に向けた政策動向を追いつつ官民双方の取材を続けている。株式会社ブルーベル代表。東京大院(比較文学比較文化研究室)修了。
続きを読む
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
個人向け国債、現場はどう向き合うか~顧客対応と社内評価の実態を探る
【金融風土記】各業態で「集約」進む福井県の金融動向
J-FLECの労作「家計見える化報告書」で“先送り”にされた2つの論点
政府内で「成長促進保証」創設案が浮上――金融機関のリスク負担割合は引き上げへ
みずほ銀行で「キャピタル世界株式」がトップに、想定最終利回り約2.7%の「グローバル債券ファンド」も人気化
【第4回】オルタナティブ戦略ファンドは何を見て選ぶのか
【連載】藤原延介のアセマネインサイト㊲
NISA買付額は成長投資枠がけん引! ただし、年後半は毎月分配型の存在感高まる
【みさき透】今泉宣親・金融庁銀行第二課長インタビュー
投信ビジネスで培った信頼は預金の粘着性につながる
楽天証券の売れ筋で「日本株4.3倍ブル」が急伸、好成績の「世界のベスト」は順位を下げる
「支店長! もっと自分を必要としてくれる会社に転職したいです」
【第4回】オルタナティブ戦略ファンドは何を見て選ぶのか
【連載】藤原延介のアセマネインサイト㊲
NISA買付額は成長投資枠がけん引! ただし、年後半は毎月分配型の存在感高まる
政府内で「成長促進保証」創設案が浮上――金融機関のリスク負担割合は引き上げへ
CDSにヘッジ会計が適用できるのか
「サイバー有事前夜」、誰が資産を守るのか――金融の利便性を支える責任と連携
【金融風土記】各業態で「集約」進む福井県の金融動向
個人向け国債、現場はどう向き合うか~顧客対応と社内評価の実態を探る
【みさき透】今泉宣親・金融庁銀行第二課長インタビュー
投信ビジネスで培った信頼は預金の粘着性につながる
社債620兆円、その先に何がある?――日証協2040年ビジョンを読む
Japan Weeks初日に高市首相と伊藤長官が語ったこと
個人向け国債、現場はどう向き合うか~顧客対応と社内評価の実態を探る
【みさき透】今泉宣親・金融庁銀行第二課長インタビュー
投信ビジネスで培った信頼は預金の粘着性につながる
J-FLECの労作「家計見える化報告書」で“先送り”にされた2つの論点
「支店長! もっと自分を必要としてくれる会社に転職したいです」
中途半端な再発防止策も容赦なく「処分の対象」に?--他人事にしにくいプルデンシャル行政処分の3つの注目点
【第4回】オルタナティブ戦略ファンドは何を見て選ぶのか
三菱UFJ銀行の9月ランキングで「ウェルス・インサイト(標準型)」がトップ維持、「世界のベスト」が急浮上
みずほ銀行で「キャピタル世界株式」がトップに、想定最終利回り約2.7%の「グローバル債券ファンド」も人気化
ゆうちょ銀・郵便局の売れ筋は上位6本が不動、代表6資産がすべてマイナス成長だったバランス型は順位が交錯
役割別ファンドラインナップ整備の勧め
~定量データで考える「ファンドの役割」とグローバル株式ファンドの具体例~
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2026 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら