資産運用の世界において、「成長株投資の祖」とされるT.R.プライス Jr.。彼の成長株投資に関する理論は、自らが創業したティー・ロウ・プライス社の顧客向けのレポートや、さまざまな講演会で明らかにされている。内容は現在の投資にも有効なものばかりだが、ここでは、そのエッセンスを抽出する形で紹介したい。

そもそも成長株の定義とは何なのか?

まず、成長株の定義について次のように述べている。「成長株は利益が長期的に伸びている会社の株と定義できる。これらの株は景気循環のピークごとに一株当たりの利益を更新し、そのことが将来の景気循環でも利益を更新するであろうことを示唆している。一株当たりの利益の上昇率は、生活費の上昇率よりも高く、予想される現金の購買力の劣化を補ってくれる。当社が目指すのは、10年間で利益が2倍になる会社を集めたポートフォリオを構築することにある。これらの会社は配当や市場価値も同じように伸びると考えられる」。

ここで言われている一株当たりの利益(EPS)は、特に注釈がないため、一株当たりの「純利益」であろう。そして、10年間で2倍ということは、年率平均で7.2%の増益が継続すれば達成できる。また、この水準の増益率が維持されれば、「生活費の上昇率よりも高く、予想される現金の購買力の劣化を補ってくれる」ため、インフレにも対応できることを示唆していると言える。

会社の利益が増加しているだけでは成長株とは言えない。T.R.プライス Jr.は、利益の中身についても言及をしている。注目しているのは「投下資本利益率」(ROIC)である。投下資本利益率は、自己資本や有利子負債など会社が事業活動に投下した資本から、どれくらいの利益を上げているかを測る指標。T.R.プライス Jr.は、投下資本の20%の税引後利益(純利益)が達成できているかどうかを目安としている。

この投下資本利益率という指標は、世界的な化学メーカーである米デュポン社が先駆けとして重視していた。デュポンは新規事業をスタートするとき、投下資本利益率が20%以上期待できないものは認めなかったという。実は、T.R.プライス Jr.は、証券会社に勤務する前、デュポン社に在籍していた。おそらく、そこでこの指標の重要性に気付いたのであろう。

当時、会社の収益力を判断する指標としては営業利益率や経常利益率が主流だったが、すでに同じ業種に属する会社同士の比較でしか機能しないという弱点が指摘されていた。現在、投下資本利益率は会社の本当の収益力を測る際に不可欠な指標となっている。

なお、T.R.プライス Jr.は、通常の利益率についても目安となる水準を示している。ただし、一般的に使われる営業利益ではなく、税引前利益を用いている。妥当な水準は業界によって異なるとし、食品・衣料品・低価格の雑貨といった回転率の高い消費財のメーカーであれば利益率は6%、回転率が低い高価格の製品であれば少なくとも10~15%は必要だという。

上記以外の成長株となり得る会社の特徴として、次のような点も挙げている。「強固な財務力」「良好な労使関係」、そして「優れたリサーチ力」だ。この中で、リサーチ力について補足をしておくと、新製品や既存の製品の新しい市場を探すための調査力のことである。変化の激しい市場で継続的に高い利益をあげるためには、新製品の投入や新しい市場の開拓が欠かせない、というわけである。