企業訪問を重視し、アマゾンのジェフ・ベゾス氏とも信頼関係を築く

これまで「成長株投資の祖」と呼ばれるT.R.プライス Jr.の投資理論について、ごく一端を紹介してきた。だが、T.R.プライス Jr.は理論だけでなく、アナリスト、ファンドマネジャーとしての資質も十分に備えていた。彼は投資において「哲学」という言葉を繰り返し使っているが、その投資哲学に基づく実際の行動は、現代のアナリストやファンドマネジャーにも必須と言えるものが多いだろう。

彼は投資先の会社を決定する際、業績面だけでなく、会社の経営陣も重視した。投資をする前にはアナリストが最低でも1回、投資先の候補となっている会社を訪問し、経営陣と面会することをルール化した。そして、実際に投資対象となった後も、少なくとも年1回は訪れ、経営陣と面会し、定期的に会社の状況や展望を聞くこととしていた。また、競合他社も同様に訪問していた。

今でこそ、こうしたファンドマネジャーの会社訪問は当たり前になっているが、ティー・ロウ・プライスの創業は1937年。本社はニューヨークから離れたボルチモアにあり、一方、投資先の候補となる企業は全米に広がっている。その労力が現在とは比較にならないのは言うまでもない。

この慣行は現在のティー・ロウ・プライスにも受け継がれ、しかも、企業に対するリサーチの体制は大幅に強化されている。例えば、米アマゾン社を担当するアナリストは総勢20名。Eコマースなどのリテール事業や企業向けのクラウドサービスである「アマゾン・ウェブ・サービス」、そして広告事業というように、事業部門ごとに複数のアナリストが分析をしている。こうした企業カバレッジは、大手運用会社の中でも際立っている。多くの運用会社が人員削減を行ったリーマンショックの際にも、ティー・ロウ・プライスはむしろリサーチや運用に携わる人員を増やしていたが、混乱期だからこそ、リサーチ体制の一層の強化が必要との判断からだろう。

ちなみにアマゾンの最高経営責任者(CEO)であるジェフ・ベゾス氏は、金融機関のアナリストとの対話にあまり積極的ではないことでも有名だ。年間6時間程度しかアナリストとは面談しないと言われているが、その6時間の内、1時間半をティー・ロウ・プライスのアナリストとの面談に割り当てている。長期間にわたって築いてきた信頼関係の結果に違いない。