通知は書類のみ。転退職の6カ月以内に手続きを
さて、企業型DCですが、会社を辞めるとどうなるのでしょう? DCには「ポータビリティ」といって、持ち運べる機能があります。それまで積み立てていたお金を一旦清算し、次の会社に持ち運ぶ、あるいは、iDeCoに入れ替えて引き続き自分のお金として資産形成を継続することができるのです。DCの税制優遇は最長70歳まで継続するので、転職しても持ち運べるというのは最大のメリットでもあるのですが、同時にここに大きな落とし穴があるのです。
そもそも、企業型DCは会社の退職金制度の一種なので、在職中はあまりみなさん関心を持ちません。いざ会社を辞める段になると、退職一時金と異なり確定拠出年金は現金で受け取ることができず、ポータビリティの手続きに関する「書類」のみを受け取ります。
手続きは結構分かりにくいです。まず「ポータブル」すべき口座は2択です。1つ目は企業型DC。これは、転職先の会社に企業型DCがある場合に選びます。2つ目はiDeCoで、これは転職先の会社に企業型DCがない、あるいはあってもそこには資金を移したくない場合に選びます。また、この手続きには、加入資格喪失(以前の会社の退職日の翌日)から6カ月という時間制限があります。
転職先が決まっている人であれば、新しい会社に企業型DCがあるかどうかすぐに確認できます。もし企業型DCがあれば、手続きは案外あっさりしていて、新しい会社にその旨申し出をすれば基本的には用が済みます。前の会社で運用していた資産全額が2カ月程度で新しい会社の企業型DCの口座に移換され、新しい会社からの掛金とともにご自身で運用することができます。
新しい会社に企業型DCがない場合は、自分でiDeCoの口座を開設して、そこに資産の移換を申し出します。この手続きも、口座さえ開いてしまえば案外簡単です。
しかし、iDeCoの口座開設は、実は少し手間がかかります。企業型は会社が口座開設をしてくれますし、運用する金融商品も会社が選んでくれたものの中から選べばよいだけなのでシンプルです。一方iDeCoは、数ある金融機関の中から、気に入ったところを選ぶという作業が必要ですし、月々数百円ではありますが口座を維持するための費用を今度は個人負担しなければなりません。口座開設の申し込みをしてから2カ月程度時間がかかるのもネックです。
とはいえ、離職の際に受け取る書類にも詳細が書いてありますし、自動移換後には定期的に通知もあります。それでも分かりにくいところもあるのかもしれませんが、現在の自動移換者は98万8791人、対前年同期比111.5%というのはあまりにも多いのではないでしょうか?
筆者は、ファイナンシャルプランナーとして企業様にお邪魔して企業型DCの運用セミナーなどをさせていただくことも多いのですが、ご自身のDCについて無関心な方は少なくありません。中には自分の残高をチェックするためのパスワードを忘れたまま、何年も過ぎているという人もいます。これではDC難民になってしまうのではないかと、行く末が心配になることもしばしばあります。
一方で、老後の資産形成についての関心が高く、iDeCoに加入したいというご相談もたくさんいただきます。iDeCo加入者は189万2300人と対前年同期比123.7%と伸びています。よく見ると、自動移換者はiDeCo加入者の約半分に相当する人数です。自腹で掛金を拠出するiDeCoは興味があるのに、会社からもらったお金である企業型DCには興味がないというのは、とても不思議な話です。
もし、あなたがDC難民のお一人なのであれば、ぜひ難民救助を受けてください。アクションを起こすのはあなたです。