提案直後にリーマンショックが直撃、投資資産が半分に

こうした話に三雲さんは納得されたようで、自分も世界中の資産に丸ごと投資をしてみたい、と言いました。そこで1300万円の預貯金うち300万円を生活防衛資金として残し、1000万円を投資することにしました。生活防衛資金とは、万一病気などで働けなくなったり予期せぬ出費に備えるお金で、生活費の1年分ほどを充てるのが理想です。堅実な彼女の場合、300万円もあれば十分暮らしていけるので、この額で設定しました。

世界分散投資を実践するには、投資信託が最適です。成長資産である株を6割、安定資産である債券を4割とし、さらに投資先地域を世界に分散していくことで安定した成長が期待できます。具体的には国内株式を10%、先進国株式を40%、新興国株式を10%、先進国債券を30%、新興国債券を5%、外国REITを5%の割合で保有できるよう投資信託を組み合わせました。さらに、同じ割合で月に8万円の積み立て投資も設定しています。これまで貯蓄に回していた月収の一部も、投資に充てることにしたのです。

ところが、これらの投資信託の買い付けを終えた直後、悲劇が起こりました。「100年に一度の金融危機」と言われるリーマンショックが襲い、彼女の大切な1000万円の評価額は500万円にまで半減してしまったのです。

当時は世界中の株価が下落した上、本来は株価と逆の値動きをするはずの債券も下落、さらに円高の影響で日本円換算での価値はさらに下落するという、投資家にとっては悪夢のような事態が起こっていました。結果的に、三雲さんはリーマンショック直前の最高値付近で大切な1000万円を投資し、ショックの直撃を受ける形になってしまいました。

株価や債券価格は、短期的には下方変動し得るものです。三雲さんのポートフォリオの場合、上にも下にも28%程度は動く可能性はあるので、1000万円が一時的に700万円程度まで値下がりすることも十分あり得る、と事前にお話していました。しかし、なにしろ100年に一度の事態ですから、下落幅は事前の想定をはるかに上回るものとなりました。

勇気を出して投資を始めた直後に資産を半減させてしまった彼女のショックたるや、相当大きかったに違いありません。それでも、「変動するってこういうことなんですね」と取り乱すことなく、私の事前のレクチャーを思い出し、冷静に受け止めようとしていました。

メディアなどでは「投資で安心な老後を目指そう」などと資産運用の有利な面が強調されることが多いのですが、実際にはつらい時も必ずあります。

私はいつも、こうした局面が起こり得るということは事前に口酸っぱく伝えています。「イケメンがたくさん来るよ!」と言って合コンに誘えば、女性はたくさん集まるかもしれませんが、ガッカリする人も多いでしょう。投資はいいことばかりではないことを事前に十分理解してもらうことは、長く続けてもらう上でとても重要だと考えています。