iDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)は税制メリットがとても大きい制度です。特にiDeCoで積み立てた掛金は全額が所得控除の対象になりますので、所得税と住民税を負担している人であれば誰でも、税金の負担が減ります。所得税の最低税率は5%(復興特別所得税を除く)、住民税は一律10%ですから、iDeCoをやれば積み立てた掛金の15%は「必ず得をする」とも言えます。

われわれ現役世代はいま、超低金利時代を生きています。「掛け金の15%は必ず得をする」なんて言われたら、それは金融詐欺を疑うべきでしょう。でも、iDeCoは違います。国が作った税制優遇制度なので、ルールに従って手続きを踏めば、必ずその優遇を受けることができるのです。私自身、普段は値動きのある金融商品を取り扱っていますので、金融商品取引法上、お客さまに対して「断定的に言ってはいけないこと」が骨の髄まで染みついています。ですからなおさら、iDeCo掛金の全額所得控除は、「必ず得をする」と言い切れること自体がとても希少性のあるメリットだと感じます。

とはいえ、「税金のことは複雑でよく分からない」と感じている人が多いのも事実です。私は税金の専門家ではありませんが、税金の仕組みを学ぶ上で、iDeCoはとてもよい題材だと考えています。

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セミナー参加者(以下、参加者)
セミナーで説明のあったiDeCoの所得控除メリットのことについて、追加で聞きたいのですが……税金の「控除」っていろいろあるじゃないですか? iDeCoの控除は、なんという控除でしたっけ。あの、なんだか長ったらしい名前の……

講師
「小規模企業共済等掛金控除」のことですね(苦笑)。でも、この名前を覚える必要はないですよ。

参加者
そうそう、その小規模企業なんたらって、例えば、年末調整でやる生命保険料控除とか住宅ローン控除とかと同じ「控除」なんですか?

控除とは「差し引くこと」。差し引く対象はさまざま

講師
確かにどちらも「控除」ですね。せっかくですから個人の税額計算の流れをご説明しましょうか。その疑問に、より深く理解いただけるお答えができると思いますので。
まず、簡単な4つの式をご紹介します。

講師
ご覧いただいている流れは、所得税も住民税もほぼ同じです。
まずは(1)の式、収入から経費を差し引いて所得を求めます。この「差し引くこと」を、税金の世界では「控除」と呼んでいます。
「控除」と名はついていますが、「給与所得控除」とは会社から給料をもらっている人の、「公的年金等控除」は国から公的年金をもらっている人の“経費”に当たる差引額のことを指しているんです。

参加者
セミナーでも、iDeCoを年金で受け取るときの税制メリットとして公的年金等控除の説明がありましたが、掛金の所得控除とは別の「控除」なんですね。

講師
はい。差し引く対象が違うってことですね。この図で言えば、(1)の段階で差し引くのか、(2)、(3)、あるいは(4)なのか……という具合です。
iDeCoの掛金は(2)の式、「所得」から差し引かれる所得控除の1つです。この所得控除は14種類あって、代表的なものが基礎控除や社会保険料控除です。先ほどご質問にもあった生命保険料控除もこの仲間ですね。そして、所得から所得控除を差し引くと、課税所得が求められるのです。

参加者
(3)の式でようやく、課税所得に税率をかけて税額を求められるわけですか。でも、(4)の式を見ると、さらに税額控除を差し引くとありますが……。

講師
ご質問にあった、住宅ローン控除が税額控除の1つです。
住宅ローン控除は正式には「住宅借入金等特別控除」と言いますが、文字通り、特別な控除です。税額計算の大きな流れとして、(3)の式までが原則、(4)の式の税額控除は特例として考えれば分かりやすいと思います。

参加者
なるほど~。「控除」とひと口に言ってもいろいろな「控除」があるんですね。差し引く対象が違うことも理解できました。

税額を減らすために一番効率的なのがiDeCo。だが、社会保険料にも注目

講師
税額計算の流れが理解できたところで、税額を減らすにはどうすればいいのか、改めて考えてみたいと思います。先ほどご紹介した(1)から(3)の式をご覧ください。

講師
今度は逆に(3)の式から見ていきます。税額を減らすにはどうすればいいと思いますか?

参加者
税率を下げられればいいのですが、それは課税所得に応じて決まるものですよね。税率は動かせないとすると、課税所得を減らすことだと思います。

講師
そうですね。それでは、(2)の式で課税所得を減らすにはどうすればいいのか、考えてみてください。

参加者
所得を減らす、あるいは所得控除を増やす、ということですね。でも、(1)の式から経費はあまり動かせるものではなさそうですし、そもそも所得を減らすってナンセンスなことですから、できるだけ所得控除を増やすことが税額を減らすためのコツになると思います。

講師
おっしゃる通りですね。そして、この所得控除を一番効率的に増やせるのがiDeCoなのです。なぜなら、iDeCoで積み立てた掛金の「全額」が所得控除としてカウントされるからです。

参加者
そういえばそうですね。年末調整で手続きした生命保険料控除も、所得控除としてカウントされる保険料には上限がありました。所得控除の中では「iDeCo、最強!」って感じですね(笑)。

講師
ははは。でも実は上には上がいて、ある意味、iDeCoよりも強力な所得控除があるんですが、なんだか分かりますか?

参加者
えっ、iDeCoって最強じゃないんですか……?

講師
それは、社会保険料控除です。
健康保険や国民年金、厚生年金保険の保険料は社会保険料控除として「全額」が所得控除としてカウントされますし、さらに、納税者が支払った配偶者や子どもの社会保険料も納税者の所得控除になるのです。
iDeCoは掛金の全額が所得控除になりますが、対象になるのは本人分だけですから、「社会保険料、最強!」って感じですかね(笑)。

参加者
ええ~っ! そうだったんですか……。
じゃあ、所得控除の面から考えても、国民年金や厚生年金保険って、結局はお得なんですね。「iDeCoは税金面で有利」くらいのイメージでしたが、詳しい仕組みを見て、社会保険を見直すきっかけになりました。

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最後は社会保険の話になりましたが、これも税金の仕組みや税額計算の流れを理解できたからこその気付きだと思います。もちろん、最初に疑問に思ったiDeCoの所得控除メリットへの理解も深まったのではないでしょうか。

繰り返しになりますが、私は税金の専門家ではありません。ですから、専門家の方からすれば、私の説明や解釈の中には厳密さに欠ける部分があるかもしれません。でも、専門家でないからこそ、税金のことをある程度理解するためのコツは、細かな定義や分類に頭を悩ませることではなく、ざっくりと原則と例外に分けて考えることではないかと私は思っています。何よりも、税金のことを人任せの他人事ではなく、自分事として考えるきっかけが、iDeCoにはあると考えています。