家族信託なら、お父様の意思に合わせた運用ができる
もう一つの方法として、「家族信託(民事信託)」の活用が考えられます。信託とは文字どおり、信じて託すことを意味し、資産を託す「委託者」、資産の管理を任される「受託者」、利益を受ける「受益者」の3つの立場が存在します。今回のように、お父様の資産を息子さんが管理する場合には、お父様が資産を託す「委託者」、息子であるご相談者が「受託者」、利益を受ける「受益者」はご両親となります。
お父様の株式や預貯金等の財産の管理を息子であるご相談者が受託して代行し、お父様やお母様の生活費や医療費、介護費等が必要になった際には、そこから捻出できるように信託契約を結びましょう。
家族信託のポイントは、委託者の判断能力があるうちに信託契約を結び、どの資産を誰のために、どんなふうに活用してほしいかを委託者自身が決められる点にあります。信託契約を結んだ後は委託者の判断能力の有無や生死に関わらず、受託者が依頼されたとおりに資産の管理を実行します。任意後見制度の場合は判断能力のあるうちに後見人を選任するものの、本人が判断能力を失ってから後見人として働き始め、本人が亡くなると後見人の役割は終了するという点が異なります。
家族信託の場合には、資産管理に専門家などの第三者が関わらないため、毎月の継続的なコストが必要ない点も大きなポイントとなります。ただしその仕組みは複雑なため、導入時の相談から手続きまでについては家族信託に詳しい法律の専門家に依頼することをお勧めします。その際は資産額や依頼先にもよりますが、数十万円から100万円程度の手数料が必要になると考えておいた方がよいでしょう。
ちなみにほかの方法として、金額的にもう少し抑えるには地元の社会福祉協議会の日常生活自立支援事業等の利用も考えられます。ただし、金銭管理として受けられるサポートは日常生活のお金の出し入れが中心のため、株の売買等は対象外となります。
お父様の判断能力があるうちにご希望を伺い、判断能力を失った後もご本人の希望に沿って資産の活用ができるという点では、家族信託の活用が合っているかと思われます。お父様自身は認知症のような症状が出始めたことを受け入れがたいでしょうが、家族信託や任意後見制度はご自身にまだ判断能力があるからこそ選択できる制度です。いずれ介護などが必要になった際にお父様が築いた大切な資産を有効活用できるよう、最善の方法を一緒に考えてほしいとまずはお父様とお話ししてみることが第一歩です。応援しています。