15年以上続く、市場に左右されない「安定的な収益確保」

――確かに、セクター分けの定義ひとつとっても、その企業や業界の背景を踏まえると、更新しないと実態と違ってくるケースがたくさんありそうですね。

クオンツの部門に移りたての頃、ファンドのポジション(売り・買い注文)を見たときに「なんだか変だな……」と違和感をおぼえたことがあります。それはまさに、ZOZOとファーストリテイリングのようなことだったと記憶していますが、クオンツは「データありき」の世界なので、産業や個別の企業を詳細にウオッチすることは少ないんです。そのため、私が感じたような違和感が運用戦略に反映されず、定義が以前のままになっていたのだと思います。

一般的に、クオンツ運用とは理論に基づいてモデル(運用の基本戦略)を作っていくものですが、その中に、こうした定義のアップデートなどのジャッジメンタルの要素を組み込んでいくのが私のスタイルなのだと思います。

このスタイルが奏功してか、私がメインで携わるようになった2007年以降も「安定的な収益確保」は継続しています。他ファンドのほとんどがマイナスを記録したリーマンショックの2008年も年次の成績はプラスを記録し、それ以降も安定的な収益確保を実現しています。

「成果報酬型」を運用者が意識し過ぎることはない

――まさに、アクティブ運用も経験されてきた魚谷さんの手腕が発揮されているわけですね。ところで、このファンドの一つの目玉となっているのが成果報酬ですが、運用者としてはどのように思われますか?

基準価額が上がれば、当然投資家はハッピーです。一方、ファンドマネジャーも基準価額が上がらないと評価されません。つまり、与えられている運用目標と投資家の期待目標が一致することになりますので、成果報酬はある意味、当然のかたちなのかもしれません。

ただ、もともと機関投資家の資金を運用してきたので、成果報酬制度が採用されたからといって運用のスタンスが変わるわけではありません。このマザーファンドの運用目的は「安定した収益の確保」。成果報酬型のファンドというと、運用会社が自分たちの報酬を得るために過度なリスクを取ってその分コスト(信託報酬)が上がる、といった傾向のものも中にはあるようですが、このファンドではその心配は全くありません。

細かい話ですが、成果報酬型というのは「(販売会社分の信託報酬を0%にできる)自社のネット直販チャネル(mattoco)での取り扱いでこそチャレンジできること」という切り口もあって出たアイデアです。

――あくまで顧客目線のファンドなのですね。なお、設定来、基準価額が10000円を下回っている足元のパフォーマンスについてはどう捉えていらっしゃいますか?

昨年末から、マーケットはバリュー(割安)でなくグロース(成長)株優位の相場となっていましたが、コロナ禍によってそれがさらに加速しました。しかし2020年の終盤に来て、相場の方向がグロースかバリュー、どちらに進むのか分からない状況となっています。

このファンドは、このように相場のスタイルが大きく変化するときパフォーマンスが苦しくなります。なぜなら「次はグロース相場が来る」「次はバリュー優位だ」などとファンドマネジャーが予測して運用するファンドではなく、マーケットの変化に合わせて運用スタイルを変えていくファンドだからです。

――方向感が定まらない相場環境下なので、ポジションを動かしにくく、パフォーマンスが出ないのもある程度仕方がないのでしょうか。

短期的に言えばおっしゃる通りです。ただ、このファンドが取っているリスク量は3.7%程度。これは「1年間で、プラスマイナス3.7%まで変動する確率が6割から7割ありますよ」という意味です。つまり、3.7%まで下落するのは想定の範囲内であり、今がまさにその状況です。過去に同様の局面を何度も迎えながら、安定的な収益確保を目指して運用を続けていますので、マザーファンドの実績も含め、長期的な目線で見ていただけるとうれしいです。

――難しいかもしれませんが、短期目線ではなく長期目線で見てもらいたいということですね。最後に読者や投資家の方、このファンドに興味をお持ちの方に対してメッセージをお願いします。

このファンドは将来の株価を当てに行くというタイプのファンドではなく、市場に左右されず、長期にわたって安定的な収益の確保を目指すファンドです。

機関投資家に長年受け入れられてきたこの運用戦略を、個人投資家の方にもぜひ、分散投資のパーツの一つとして使っていただけたらと思います。値動きが地味なために退屈なファンドと思われるかもしれませんが、5年先のリターンを見て保有するというように、長い目で見守っていただければ幸いです。

■インタビューを終えて

ファンドマネジャーに必要な資質を聞くと、少し悩んで「メンタルが強いこと」と答えた魚谷さん。クオンツとジャッジメンタルという二つの世界を知り尽くし、相場に応じて巧みに変化させる魚谷さんの「プロの仕事」こそが、長年機関投資家の支持を集め、生き残った理由なのでしょう。今後も「百戦錬磨の名人」である魚谷さんのブレない手腕に大いに注目したいところです。